252.友達の形 | 彼女じゃない恋愛*愛した男には彼女がいた

252.友達の形

「映画の時間までだいぶあるな。ブラブラするか」
「ブラブラ」
「お前ってブラブラしたりするの?」
「あんまり」
「あれだろ!買い物行っても目的の物しか買わない」
「そうそう」
「お前とこうやってブラブラすることもなかったよな」
「そうだね」
「ちょっと外出て煙草すうか」
雑居ビルを出て、喫煙所を探す。
「最近は煙草吸う場所も限られてきたよな」
「次の喫煙所までもたないよね」
「やめたら?」
「なんでさ!」
「俺が言ってもやめないか」
「やめないよ!止める時は自分で決める」
ビルの影、人気のない場所で小さな灰皿を見つける。
私は鞄の中から煙草を出し、2本取り出す。
1本をくわえ、もう1本は口を開けて待つ彼の口へ運ぶ。
彼はパクッとくわえ、モゴモゴ言いながら「火」と言う。
「あれ?ライターない」
「えーーーもう!あぁ、俺のポケットにある」
「え?!」
「両手ふさがってる。取って」
「どっち?」
「さぁ、どっちでしょう?」
「えぇ!もう」
私は彼のジーンズの狭いポケットに無理やり手を入れる。
「どこ?ないよ?」
「まだポケットはいっぱいあるだろ~」
「まさか、チビポケットinポケットじゃないよねぇ~」
「なんだよその、チビポケットinポケットって」
「ポケットの中に意味のないチビポケットあるじゃん」
「そんな風に言う奴おらんし、てか入らんし」
「もぅ!どこ!!」

「は~や~く~」
「自分でとりなよ~~~。ちょっと失礼」
彼のケツをパシパシ叩く。
「おい、それライター探す以外に、怨念こもってないか?」
「気のせいだよ」
「煙草吸いた~い」
「もうポケットない」
「もう1個入り口あるの知ってる?」
「どこ?」
「ここ~」
そう言いながら彼は腰を前に突き出す。
「……あ…あ、あったあった、ここを忘れてた~。こうやって擦ってちょっと時間掛かるけど、愛情たっぷりに擦ると火がつく~ってなんでやねん!」
私は彼の股間を遠慮がちにさすりながら言う。
「乗るなよ!あはは。てか最初躊躇ったろ」
「バカじゃないの!」
「はい、荷物もって」
「始めっからそうしなよ!」

「普通に左のポケットに入ってるし」
「そんな奥まで入んないし」
「そんなこと言ったら火貸さないよ」
「ご…ごめんなさいー」
彼は、火をつけてくれそのままライターをまた左ポケットにしまった。
「ぷは~やっと吸えたね。ありがと」
「至福の時や!お前にこれ以上の至福なんてないだろ」
「うん、失くなった」
「……そか」
「もう、あぁいう事させないで…」
「ごめん」
しばらく、無言のまま二人煙草を吸った。
もう少し無言のままで、そう思っていたかどうかは解らないが、時間をかけて1本を吸った。

「さっき横通った輸入雑貨の店行ってもいい?俺探してる物あるんだよ」
「うん、何?」
私たちは煙草を灰皿に押し付け、ビル内に入り来た道を戻った。
「木の人形で、体が三角なん。去年かな1体貰ったんやけど、そいつの仲間がいるらしくて、集めつめてるねん」
「ふ~ん」
「おっ!ヤバイ!いっぱいおる」
「どれ?」
「これこれ」
「わ~可愛い」
「だろ?」
「いっぱいおる~」
「俺もこんなおるとこは初めてみた」
「部屋がにぎやかになるね」
「完成図を想像するだけでワクワクするわ」
「こいつとこいつは恋人同士やねんね」
「みたいやな!俺、こいつ持ってるから相方は買ってやらんとな」
「この犬可愛い~」
「どれ?おっ!それ頂き」
「ちょっと待って!コレ全部表情ちゃうや~ん」
「そうやで!だから良いねんやんか」
「うっわ~~~可愛いね~」
「お前って何色好き?」
「んとね、緑」
「最悪やな、俺の運気を下げる」
「凹む…」
「お!おったおった」
手渡される緑色のサルの人形。
「可愛くないサルや」
「可愛くない…いらない」
「俺も、そいつはいらんわ」
「ムカつく…このサル可哀想」
「お前が買ってやればいいじゃん」
「……いらないもん」
私はサルの人形をもとあった場所に戻し、その売り場から遠ざかる。
「俺、もう少しみてるから」
もっと、ずっとずっと前にこんな買い物をしたかった。
そしたら私も、絶対あのサルの人形を買ったのに…。
私は輸入雑貨店の違う商品を見てまわった。
少しレトロなおもちゃが並ぶコーナー。
無人駅のホームに置いてある広告がついてあるようなベンチに、バスと停留所。
私はバスを手で押し走らせ遊ぶ。
残酷的にそこに置いてある人形をバスでひきはねてみたりもした。
「何やってんねん」
「あ、このベンチにさっきの子たちが座ると可愛いね」
「お!ほんまや、ちょっと並べてみたろかな」
「あは、ピッタリサイズやん。ちゃんと座ってる~」
「部屋にあるやつは、テレビの上にただあるだけやから、このベンチ欲しいな~」
「このベンチがあるだけでミニチュアの世界だね」
「お前、いいこと言うわ!こういうおもちゃにかけては先生やな」
「何かムカつく」
「お前にも出来上がったとこ見せたりたいわ」
「ふふ…」
1度だって見ることはないのだろうな、そう思ったら寂しくなった。
彼に喜んでもらえたことの嬉しさと寂しさ。
私は何故ここにいるのだろうという気分になる。
「ちょっとごめん」
「ん?」
彼の方を見ると、彼は私の両肩に手を添え押す真似をした。
私の肩と彼の手の距離はやっぱり10cm程あった。
「ちょっと通る」
「あぁ、はいはい」
私は狭い通路に少しのスペースを作った。
彼は、細心の注意を払うかのように私に触れずすり抜けていった。
私、バイキンみたいじゃん…。
何となく見るものなく、やることもなく、すり抜けていった彼の後をおった。
彼はポスターを見ている。
「ポスターも部屋にあるの?」
「部屋が寂しいからな」
「ふ~ん」
「う~ん、こういうのはいらんねんな」
彼は幾何学模様のポスターを持ち上げ言う。
「嫌いなの?」
「目、チカチカするやん」
「綺麗じゃん」
「何か逆に疲れる」
「そ…そなんだ…」
「何?」
「別に…」
「やっぱ、ド~ンとこう1つインパクトがある方がいいかな」
彼が持ち上げたのは背景余白を十分に残した単純なデザインのものだった。
「そう言うのが好きなんだね」
「まぁな。どうした?」
「うぅん」
「疲れたか?」
「大丈夫だよ」
「そろそろ時間やし、行くか」
彼は清算をすませ、店の外で待つ私に駆け寄ってきた。
「楽しくないか?」
「うぅん、楽しいよ」


「ちょっと早いけど休憩がてら待つか」
映画館の売店などが並ぶフロアの置く、ソファーベンチに座るよう彼に言われる。
私が座った場所に荷物を置いた彼は、売店へ飲み物を買いにいった。
そして手に飲み物を握りながら私の元へ戻ってくる。
飲み物を手渡され、置いていた荷物をずらし、彼は私の隣に座る。
彼は半身私に被さって私を後ろから包み込むよう密着して座った。
え?!あれ?!え?!
「のど渇いたろ?飲めよ」
そう言いながら彼は私の頭を撫でた。
挙動不振になる。
そんな私に気づいたのか、彼は何もなかったかのように、少し私からスペースを作り座り直した。
本当に何もなかったかのように…。
「せのり電車男って見た?」
「映画の方?見てない。ドラマは見るつもり」
「あれだろ、伊東美咲」
「伊東美咲?」
「うーん、ランチの女王に出てた」
「あぁ、好き」
「いや、好き嫌い聞いてないし」
「嫌いだったら見ないじゃん」
「ま、そうかな」
「で、何?」
「…何、言おうとしてたのか忘れたわ!曲誰?」
「あれ、トびはねでやってるやつ」
「あぁ、サンボマスター」
「え?!サボテンマスター」
「何の専門職だよ!」
「あぁ言う純愛ってどう?」
「ありえんわな~」
「ありえん…」
「今、何がありえんって思った?」
「え、いや、顔だろ!顔!と思って」
「まぁな、何だかんだで顔って重要だよな」
「カッコいい奴じゃないとしゃべりたくもない」
「何で俺と話すようになったん?」
「え?!それ本気で言ってんの?」
「何?!」
「その顔で、自覚なし?!」
「自覚ってなんだよ、自覚って」
「モテるでしょ~ってよく言われるでしょ!」
「あぁ、実際言われるけど、好意を寄せられたことなんてないよ」
「性格悪いもんね」
「それ、結構凹む」
「あはは」
「でも、俺ってお前のタイプではないだろ」
「全然!ストライクだよ」
「何処がだよ!お前の好きな奴って、ガクトとか堂珍とか王子様系やんか」
「そこだよポイントは!王子様」
「王子様が何?」
「一般ピーポーが王子様をストライクゾーンにするかってこと」
「あぁ、別格って事か」
「そう!もし、ガクトが目の前に現れたら拝むね」
「俺は?」
「何?容姿で悩んでるわけ?」
「こんな事お前に言うのもアレだけど、何で俺なのかな?って」
「どういう意味?」
「お前ならさ、もっといい男が横に並んだ方がいいんじゃないかって」
「そりゃ好みでしょ!」
「まぁそうだけどさ」
「ウチってさ、可愛いと思うんだよね」
「あはは、調子こいて何言い出してんだよ」
「冗談じゃなく、一応は可愛いと思われるようにしてるわけさ」
「あぁ、でも冗談抜き上玉だよ」
「ウチはね、不細工は嫌いだし、友達にもならない」
「ハッキリ言うね」
「腹黒いかもしれないけど、実際そう!私はそんな低いレベルの人間じゃないって思ってる」
「いい心がけだ!」
「でもね、世の中には自分より可愛い子たちがウジャウジャいるわけで、もっと可愛くなりたいって思っても身に染みて自分のレベルを感じるわけよ」
「で、お前の中のランクって?」
「中の上」
「ま、妥当だな」
「ウチは、自分よりレベルの低い人間とは付き合わない。出来れば高いレベルに混ざって向上させたい」
「それって、褒められてる?」
「ウチのことを上玉だと思ってくれてるなら、もっと自信もって」
「あはは、ありがとう」
「ゆうじが自分に自信がない人でよかった」
「ん?」
「本当なら、ウチに見向きもしない別の世界の人だよ」
「また褒められてるな~俺!励まされてるのか?」
「ウチは、周りの人がゆうじの横を見て何であんな女連れてんだろうって思われないよう頑張った」
「そっか」
「可愛くなったと思う。もっと可愛くなりたいと思う」
「そうだな」
「ゆうじもウチに劣ると思うなら頑張ればいい」
「あはは、そうだな」
「好きな人振り向いてくれないの?」
「ん?」
「綺麗な人なの?」
「俺はさ、自分で言うのもアレだけど高飛車なんだよ」
「ぶっ!っぽい」
「いつも自分より下じゃないと嫌なのね。お前くらいだよ…な、だけにお前が俺と一緒にいることが不思議で仕方ない」
「ふ~ん、見下されてるって思ってるんだ」
「思ってないよ。お前は尊敬してる」
「ウチもだよ」
「少し彼女と話をしたんだよ。仕事上だけどな」
「そう」
「何だろうな…」
「眼中になく見下されてる気になった…」
「どうだろうな…」
「そんな、自分で自分を貶してたらどんどん落ちてくよ」
「落ちてるつもりはないけどな」
「ゆうじの良いとこ消えちゃってるよ」
「俺の良いとこ?」
「悔しいから教えない」
「あはは」
「ゆうじは素敵な人だよ」
「ありがとな…お前、そんな綺麗な笑顔で笑えたっけ?」
「ウチは何も変ってない。ゆうじが勝手にウチより下に落ちただけだよ」
「そっか…」
彼はひじを膝につき、両手を組んで両人差し指で眉間を押さえ、時々目をつむり黙ったまま何かを考えているようだった。
私はそんな彼の横顔をじっと見つめた。
しばらくすると、彼は右手で拳を作り、左の手のひらへパチンと拳をぶつけ、大きなため息を無理やり吐き出した。
「せのり、見てみろよあのカップル!援助かな?」
「どれ?う~ん、ぽいけど男の子まだ若いって」
「高校生だな、いや退学しましたって感じだなありゃ」
「女の子制服だけど、何故か胸元はだけてるね」
「俺らと同じ映画っぽいな」
「かな」
「この時間だと映画終わって確実セックスだな」
「わかんないでしょ~」
「あのカップルセックス三昧っぽくねぇ?」
「ぽ、ぽいけど~」
「バック、バック、バック、バック!みたいな」
「キモイよ!てか、バックばっかじゃん」
「映画見終わってやることってったら一つしかないわな」
「ふ~ん、一つしかね…」
「俺らも行くか!」
「え?!」
「あはは、え・い・が!」
「う、うん」
私たちは上映10分前の劇場へと向かった。


席につき、荷物を置き、彼と私の間にあるホルダーに飲み物を置く。
私は膝に手を置き彼の手を眺めてた。
いつも握ってくれていた手を眺めてた。
彼は指で太ももをリズムよく叩く。
そして両肘掛に手を置き、居心地を確かめるように肘掛を摩り、落ち着かなかったのか今度は自分の太ももを摩る。
何となく、彼の手が落ち着く場所を探してるように見えた。
自分が自分の手の置き場に困っていたからかもしれない。
彼は、両手を合わせ指を絡ませる。
行ったり来たりの指、握ったり叩いたり…。
そして両手は引き離される。
また太ももを摩り、もう迷わないぞとばかりにもう一度彼は両手を組みそのまま下腹部のところへと落ち着かせた。
私も両手を組み太ももの間に置いた。
お互い、行き着いた場所は自分の手を自分で握ることだった。
劇場が暗くなる。
スクリーンで予告上映が始まった。
「せのり、多分それほどエグイもんはないと思うけど少しアクションあるからな」
「うん、だって戦国でしょ!覚悟はしとります」
「叫ぶなよ!」
「大丈夫だよ!!」
大丈夫ではなかった。
バッサバッサ、ドッカンドッカンと人が死んでいく様を見て、私は固まる。
パッカリ開いた口、殴られるわけでもないのに顔をガードする腕。
「で、何この手」
「な、何でしょう?」
「怖いか?」
私は首を横に振る。
正直めちゃくちゃ怖かった。
泣きそうだった。
「この手、すんげぇ力入ってんな!震えてんじゃん」
彼は私の手を握りそう言った。
「繋いでてやろうか?」
私は、首を横に振った。
彼は、少し私の手を摩ったり握ったりしたあと、ポンポンと私の手を叩きまた自分の手を握り直した。
大きなアクションがあるたびに私は怯む。
脱力しかけたころ、彼は私の頭に手をやり私の顔を彼の肩へ伏せさせたのだ。
そっと頭を撫でられ、私はそのまま動けなかった。
怖い映画を見ようとも思えず、彼に頼ることも出来ず、何も選べず、ただ与えられた状況を超えるしかなかった。
溢れそうになる涙をぐっと耐えた。
何に恐怖していたのかは解らない。


映画を見終え、私たちはカラオケへ行った。
「やっぱりお前に会ったらカラオケ行かないとな!」
「何それ!」
「周りはおっさんばっかやからな」
「おっさんでも歌ってりゃいいんじゃない」
「知ってる曲が違うやん」
「ウチもそんなに知らないじゃんよ」
「気にするな!今日はせのりの歌が聞きたい」
「えー、ゆうじが歌うんでしょ」
「いいから!ほら、何歌う?」
「え、ちょっと待ってよ」
「最近、何聞いた?」
「えー、CDは買ってないし…スマスマくらいしか」
「先週何歌ってた?」
「友だちへ」
「よし、それいっとこ」
勢いで選んで歌わされた曲に声が震えた。
彼にも伝わってしまっただろうか。
今まで茶化していた彼が、真剣に画面の文字を追っていた。
「'Cause I needed a friend 君が必要さ 友達と 呼べる…」
「どうした?歌えよ~」
「もういい…」
「君には 僕が必要さ 友達と 思える幸せ Good love from me to you」
彼は私の代わりに最後まで歌った。
「いい歌だね」
「そうだな」
「本当にいい歌だと思えてるのかな…うち」
「……お、お前にそんな歌の才能があるわけないやろ」
「あはは、そうだね」
「よし!次、何歌う?」
「もうウチはいい~の~」
「大塚愛、覚えた?」
「まだ」
「聞くっていったろ?」
「お金ないもん」
「あぁ、もう!そう言うと思った。俺ずっとお前にCD貸そうと思ってたんだよ」
「貸してくれんの?」
「持ってくりゃ良かった!今度絶対貸すから、てか帰ってすぐ郵送したいくらいや」
「そんなに歌わせたいんだ…」
「特に『大好きだよ。』な」
「うん…」
「ってか、自分で歌お!聞いとけ」
何だかんだと言いながら2時間ほどカラオケをした。


これが、友達と呼べる幸せなのだろうか…。 
彼の側にいて確かに幸せと呼べるあたたかいものを感じた。
だけど、おしつぶされそうな重圧感に涙を堪えることで精一杯だった。
ずっとこのまま…そう思う気持ちと、今を乗り越えるという気持ち。
私はあなたの友達が出来ていますか?



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歌詞引用

SMAP, エリック・クラプトン, 竹内まりや, 小林武史, 麻生哲朗, 武藤星児
友だちへ ~Say What You Will~

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