255.無神経に無神経に思う | 彼女じゃない恋愛*愛した男には彼女がいた

255.無神経に無神経に思う

彼からの連絡はなかった。
全身で彼を信じ、彼を待った。


「もしもし?せのりさ~ん?聞いてる?」
「ん?聞いてるよ」
「そろそろ、外出てこんか?」
「そろそろ?ん~、あんまり乗り気じゃない」
「引きこもっててもさー…」
「まだそこまで塞ぎこんでないって!」
「そうかな?」
「ほら、まだ彼とも話し合いの途中だし、よし!これからどうしようって考えてるところだよ」
「連絡はあるん?」
「うん、あるよ。会ってからまだないけど」
「いつ会ったん?」
「6月入って…11日やったっけな…」
「もう…1週間以上も経ってるやん」
「1週間連絡がなかったことなんて普通だよ」
「話の途中で1週間経つことに疑問は持たないわけ?」
「ん~、ずっとそれが普通だったから…。途切れた事なんて今思えばないよ」
「あんたはそれで何年待ったの?!これから何年待つつもりなの?!」
「必ず…返事が来る…から…それまで…」
「セックスはしたの?」
「してない…最後にいつしたかも思い出せない」
「そっか…」
「ゆうじとセックス出来たのって何回あったっけな…」
「後悔してる?」
「どんな?」
「う~ん…」
「するとするなら、もっとちゃんと受け入れる事が出来たらよかったな、かな」
「ちゃんと?」
「結局、ウチ、セックスできないままじゃん!って思って」
「……」
「無言になられると困るんやけど」
「ごめんごめん、やっとやったのにとかさ、私が後悔してしまう、変やね」
私を心配してくれる親友と毎日毎夜にこうして連絡を取り合っては何かを見つけ出そうとしていた。
あれから何日が経ったと彼女はいつも言うけれど、私に月日の流れは感じなかった。
100時間経とうが200時間経とうが、私にはカウントする日などなかった。
「結局、関係は続いてるんよね?」
「どんな関係なんだろう?」
「セックスしたいとは思わないか…」
「友達、かな」
「友達…だったら連絡くらいして来いって思うわ」
「忙しいんじゃない?」
「はい、終了って気持ちの切り替えが出来るような奴なら、浮気なんてしない」
「あはは、そうだね。でも、そこに拘ってても何も変らないし…」
「納得したってこと?」
「納得…したのかな?」
「あんたは今、何を待ってるん?」
「話したいことがあるから連絡してって言ったから連絡来るのを待ってる」
「話したいことって?」
「まだ解んない」
「へ?」
「自分が今昔の自分に戻ってるのを客観的に気づき始めてるんよ。ウチが中学の時に取った防衛策で、そうしないと自分が壊れるのを知ってる。ぶっちゃけ、あんたと電話することも面倒くさいと思い始めてる。心を開くことが面倒になってくる。っていうか、面倒って言葉を使うこと自体もう症状は進んでるわけやけど、痛みとか苦しみとか辛さとか感情を隠して感じなくなってきて、きっといつしか楽しさや幸せなんかも感じなくなってゆく…。今、自分が何を感じているのか解らなくなってて、それを感じていないんじゃないか?って客観的に見てる。本当は怒るところなんじゃなかろうかとか、泣いてもいいんじゃないかとか、色々考えるんやけど…感じてくれなくてさ…。あんたに心開けたのは憧れからだった。ウチもあんたみたいな女の子になりたいっていう真似みたいなところがあった。だから、正直自分の気持ちなのかどうかってのは解らない。私だったらどんな風に感じるだろうかっていうものを打ち明けてた。それでも本音には変わりなかったんだよ!フォローになってないか…。ゆうじの場合はね、ゆうじの声は本当に心で感じることができた。この痛みはなんだろう?この心地よさはなんだろう?そっから自分の想いを当てはめて感情を知った。ゆうじに話を聞いて欲しいって思うのは、自分が本当の自分でいられる気がしてるから…。今、こうしてあんたと話していることも十分嬉しさに繋がるけれど、どこか府におちなかったりもっと奥には別の感情があるんじゃなかろうかって…思ってる」
「俺じゃダメか…?」
「誰それ!」
「キムタク」
「懐かしいな~」
「でもそれはずっと気づいてた。あんたの事一番知ってるのはこの私って思ってたけど、あいつが現れてから、変わってくあんた見てて、ウチが知らん事をあいつが知ってて、開けんかった心をあいつが開いて、正直悔しかったもん」
「嫉妬~?!」
「そうそう、せのりは私のもんやのに~ってね」
「ウチ、そう言うの思ったことないかも…私のものってなかった気がする」
「それは違う!確かに独占できるようなものではなかったけど、そう思うことは間違いじゃないし、当然の感情やと思う」
「だからと言って…ね」
「それにあんたもウチのもんでもないし」
「あはは、そうやけど」
「あんたを独占欲で縛ろうとは思わんけど、独占欲があるからこそ、あんたを知ろうって思う。独占欲があるから寂しいと思う。独占欲があるから力になろうって思う。独占欲は独り占めにした欲じゃないとウチは思ってるよ」
「なんか、珍しくえぇこと言うた雰囲気になってるよな」
「茶化してる?」
「ごめんごめん、何か妙にずっしりきたわ」
「何か、ウチした方がいいか?」
「何を?」
「ウチから連絡してみるとか…」
「してもかわらんやろ…」
「必要な時に居てくれへん人が…うん…ま、とりあえず、今日は寝るわ。また明日聞くし」
夜な夜な、毎夜毎夜、続いた。


親友が徐々にロボットのように思えてくる。
欲しい言葉を吐き出し、捨てたい言葉を飲み込んでくれる。
保存も消去も思いのままで、人としての機能を失いかけていた。
ある日、彼女を傷つけるまで、私はそれに気づかなかったんだ。


「今、彼氏の家から帰ってる途中やねんけどさ!あいつ、また浮気しよって喧嘩して家でてきたった」
「そう…」
「全く追いかけてこんしな!」
「そういうタイプじゃないやろ」
「な~、もうアホな男捨ててさ、二人で新しい男探しに行こうさ」
「遠慮しとく」
「そうやってウジウジしてたって、仕方ないやろ」
「これがウチのやり方やから」
「そうやって何の意味があるっていうのさ」
「今動いたって意味がないことに変わりはないやろ」
「あんたはえぇよな~。そうやって待ってれば戻ってきてくれる男がいるもん」
「それは誰のことを言ってるわけ?」
「あいつ、絶対戻ってくるし」
「それは何の根拠があっていってるわけ?」
「だっておかしいやん!辻褄あわへんもん」
「知ってる限りで合わそうと思ったって、ゆうじの人生は判らんやろ」
「好きならとことん好きでいればえぇやん!」
「じゃ、あんたも彼氏の家戻ればいいんじゃないの!」
「辛い時は、明るくパ~ッと発散させようと思っただけやろ」
「ウチは、そういうんじゃ発散せんから」
「ウチの話は聞いてくれんってことやな」
「聞いてんじゃん」
「もうえぇよ…同じ辛さなら一緒に晴らそうと思っただけやから」
「ウチは、ゆうじが戻ってこな晴れへん…」
「ずっとそうしてたって戻ってくるもんも戻ってこんよ」
「じゃ、何とかしてよ!」
「……」
「ウチはどうすればいい?何かをすれば戻ってくる?あんたは今すぐ戻ればいいんじゃないかな?!」
「……」
「もう…無理なんよ…あんたが思ってるような期待はないよ」
「だったら…」
「ウチもあんたみたいになれたらって思うけど、やっぱり作りが違う。誰しもがより早く立ち直るべくして道を選択すると思う。いつまでもこんなんじゃあかんって思うよ。ウチがとる行動は人からすれば塞ぎこんでるように見えるかもしれんけど、ウチが一番早く立ち直れる術やねん。ひたすら考えて、答えを出す。それしか動かれへんねん。それを認めろとは言わんよ…。自分でも、こんなやり方でずっとやっていきたくない。そやけど、もう少し、見逃して欲しい。…それから男の浮気話とか聞きたくない」
「ごめん…」
「……」
「また…話聞いてな…」


彼女はそっと電話を切った。
しばらく電話の切断音を聞き入った。
なんだか判らない悔しさがあった。



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