262.解ると理解のすれ違い | 彼女じゃない恋愛*愛した男には彼女がいた

262.解ると理解のすれ違い

「そろそろご飯食べようか?」
「うん」
「お風呂入ったんか?」
「ん?入る」
そんな会話を家族と何度かした。
もうこんな時間か、何度も思った。
何日かが経ってた。


携帯が鳴った。
着メロが鳴り始め「ピーッ…ピーッ…」と警告音が鳴り響き静まる。
充電切れた、そう思った。


その日もまた父が私の部屋の戸を開け言う。
「そろそろご飯たべようか?」
窓の外、陰る日も感じることが出来ずにやるべき事をやらされる日々。
私は携帯を充電器にさした。
そして食事を作る。
これがきっと何十年も続いていくんだと思った。
抜け出そうと思ったこと、バカらしく思えた。
食事を作りながら何度も携帯がなっていた事を思い出す。
だけど直ぐ忘れた。
そして何度も思い出した。
食事を取りながらも、お皿を洗いながらも…。


<俺と付き合ったこと忘れたいか?なかったことにしたいか?俺は意味あるものにしたいと思ってるよ>
付き合ってない。
あなたと私は何もない。
これから意味を見つけるところだった…。
何だったの…私は思ってる。
彼はマイナスな答えは出さないって言った…なのに。
これから答えを出さねばならない別れって、何なの。
きっとあなたとの関係は、私にとって意味あるものだと思った。
何故、今その意味を改めねばいけないの…。
部屋で携帯を眺め、淡々と心に呟く。
返信ボタンを押す行為に少しの踏ん切りが必要で、携帯を持ち替え力いっぱい手を握りしめ拳を作る。
<もう構わなくてもいいよ。こういう扱いには慣れてるし>
随分前に届いたはずのメールに返信したのだけれど、直ぐに彼から返事がくる。
<お前はいつまで現実逃避し続けるつもりだ?>
<逃げてないよ…ずっと同じ場所にいるだけだよ>
<それを現実逃避っていうんだ!>
<逃げてたらもっと楽なところにいる>
<何で動こうとしないんだよ。頑張ってくれよ>
<何でウチに構うの?おもしろい?>
<お前を傷つけたとは思ってるよ。だけど、病院の先生じゃないって言ったのは訂正しない。俺はせのりの友人であり理解者やで。強くなれ、頑張れって言ったのも投げた言葉じゃない。俺の気持ちも解ってくれよ。終わりでも始まりでもない、お前はお前なんだよ>
<私にどうなって欲しいんですか…>
彼が欲しかった言葉はこれじゃないって知ってる。
私は重い言葉で彼をいつも黙らせた。
それを私は素直にならなかったからだと思ってきた。
だけど、違う、これは本音。
私が本当の気持ちを言うといつも彼は黙った。
私はいつも素直で強い子を彼の前で演じてきた。
<一番理解してもらえてることなんて解ってる。何も言わなくったって伝わってるのかもしれない。だけど、私はちゃんと自分の言葉で言いたくて、聞いて欲しいって思ってる。ちゃんと感じたことは話してるつもりだった。なのに、話せてないとか解らないとか無言で電話切られたり患者扱いされたら、何も言えない。理解なんて私が求めてないこと解ってもらえてますか?心なんて読んで欲しいなんて思ってない。私の言葉を拾って欲しかった。ゆうじには何も言わなくてもいいみたいじゃない…それじゃ。もしかしたら私は病院で治さなきゃいけなかったのかもしれない。だけど、先生じゃなく友達や大切な人に聞いてもらいたかった。私、ゆうじと話したい。だから病院行ってきます。ちゃんと話せるようになったら話してくれるでしょ?頑張るから>
これでいいのかな…。
<お前の頑張り見てます。いつか決め付けだったと笑える日がくるように祈ってる。しっかり周りと向き合っていこうな>
<見てる?祈ってる?…私、ゆうじが言ってる意味が解らない。何で話してくれるって簡単な事言ってくれないの?嘘になるから?それとも私が人と話が出来ない人間だから、伝わってないだけなの?解んないよ…>
<見守ってます>
落胆した。
ただ、自分が欲しい言葉もらえなかっただけだったのだけど、私は彼の欲しがってる言葉を言ったのに…それが後悔をさそった。
携帯を握ったまま言葉みつからなかった。
<お前なら出来るから。お前は幸せになれるから>
見捨てられた気分だった。
生きた心地がしなかった。
気づけば右手にカッターを握ってて、怖くなって涙が溢れる。
<いつまでも側にいます>
気づける気持ちはマイナスな事ばかりで、あともう少しで死ねるんじゃないかって…。
だけど、私はそれでも生きたかった。
解らないけど…。
<せのりは、俺の大切な人だから>
代わりに携帯握り締めて、一夜を越した。
もう、彼には連絡を取らないって決めた。
彼は私の一番の理解者なのかもしれない。
<頑張れ、せのり>
今、気づけない気持ち彼は知ってて、何も言わない私に言葉をくれてる。
私は頑張ろうとしてるの?


溢れる気持ちとは逆に、私はいつもと変わりのない日を過ごした。
死んでしまいたいって思いながら、与えられた仕事精一杯やった。
一人ぼっちだと思った。


「なぁ、あいつウチらが思ってるような良い男じゃないんじゃない?」
親友が私にそう言った。
「ずっと側に居るっていったよ」
私はそう答えてた。
「連絡は?」
「連絡とらなくても関係は終わらないから」


もう誰も信じないと思った。


「あんた、おかしいよ…」
「そうかな?いつもと変わらないよ」


いつもと変わらない明日がまたやってくる。
季節も変わる。


「何で、そんなにあいつのこと信じられるの?」
「またかって思いたくないから…」


それだけだったと思う。



[ ← 261 ]  [ 目次 ]  [ 263 → ]