彼女じゃない恋愛*愛した男には彼女がいた -6ページ目

251.暴力

<繰り返し繰り返しなんだけど、あと1つ確かめたいことがあるの>
翌日、彼にメールを送る。
<ごめんね、会議中でした。まだ残業だからまた連絡する>
しばらくして彼から返事が返って来る。
夜の9時。
いつになく彼は優しいと思う。
否、こんな彼は初めてかもしれない。
彼は私に気を使っている…。
そして0時を過ぎまた彼からの連絡が来る。
<明日、映画に付き合って欲しいんやけど、都合どう?>
コレが彼の創りだす友達なんだろうかと思った。
私の都合を聞かれたことなんてなかった。
私に仕事があっても無理やり会いに来る人だったのに。
会うことが当たり前ではなくなったのだ。
<行く!実家戻るの?泊まり?ソフト?>
返事はこんなんでいい?
<夜には帰らないといけないから泊まらないな。見たい映画あるねん。少し話も出来るやろ>
<そっか。んじゃ、待ってるね>


翌朝の9時、携帯が鳴って目が覚める。
重いまぶたを開けようとするも、直ぐに閉じてしまう。
闇と光が交差する。
その度に、顔がパリパリときしんだ。
涙が止まっている。
乾いた涙は顔を突っ張らせていた。
こめかみをこすると、ボロボロと粉が出る。
朝起きるといつも横髪が揺れていたのに…。
そして催促をするようにまた携帯がなった。
私は慌てて携帯をチェックする。
<12時頃迎えに行きます>
<返事がないんですけど~>

彼からだった。
こういう強引なところは相変わらずなのだな。
<ごめん、メールで起きた。今から準備する>
<ちゃんと目ぇ覚ましてくださいね~>
携帯を閉じ、乾くことのなかった涙をシャワーで流すことにした。


シャワーを浴び、ドライヤーで髪を乾かす。
ドライヤーを切ると携帯が鳴っているのに気づいた。
いつから鳴っていたのか、手に取った時には切れてしまった。
しまった…。
直ぐに掛け直そうと携帯を開き着信履歴から発信する。
プーップーップー、話中だった。
すると、家の電話が鳴り始める。
まさか!
「もしもし」
「もしもし?!何で出ん」
「ってか、何で家電」
「ここまで来たし、寝てるんやったら意地でも起こしたろうと思って」
「相変わらず強引やね」
「で、準備はできたの?」
「これからメイクする」
「はぁ?これからなん!?」
「12時まであと30分もあるじゃん」
「俺、もうついてるんやけど」
「12時って言ったでしょ!」
「頃って言ったんです~」
「カーーー!ムカつく」
「待つのは12時までな」
「もぅ!電話中やから話かけんといて」
「え?!誰かいるん?」
「あぁ、ウチが出かける準備してるから家族がうるさい」
「心配してはんのか?」
「ちょっとね…色々あったし」
「過喚起症候群」
「そそ!よく覚えたね?」
「俺の所為やな…ごめん」
「違うって、過呼吸はその前からあったし」
「でも発作の原因は俺や」
「責任感じたいならご自由に」
「冷たっ!」
「だって、コレは自分の弱さだもん」
「そっか、そうなんだよな~」
「ん?」
「…いや、俺も言われた。仲間やな」
「あはは、過呼吸仲間~!何悩んでんの?ね~?」
「ん~まぁ~、な、色々とな」
「ふ~~~~~~ん」
「何やねん!」
「話したくなったらいつでも聞いたげるよ」
「はいはい、ありがとうございますぅ~」
「その痛みはあなたの優しさだから…」
「先輩ズラしてるけど、俺のがひどいしな!」
「何?!不幸自慢?!」
「あぁ!せのりの過呼吸なんかたいしたことあれへん」
「ぷっ。そうかもね」
「何笑ってんねん!早く準備しろ!あと15分やぞ」
「はぁ?ロスタイム15分やから」
「あぁもう待ってるからさっさとしろ!」
彼がサラリと自分の傷を話した。
私は出会ったときから彼は同じだと思っていた。
やっとやっと開いてくれた心、私には優しく包んであげられない気がした。
私は何処まで彼に触れていいのだろうか。
遅すぎるよ…。


電話を切ると家族がうるさい。

「デートか?」と干渉してくる。

私は家族に彼の話をした。

彼が家に来たいと言った翌日のことだった。

あれから家族に彼の話はしていない。

紹介したい男性に振られたなど…言えやしない。

私は家族に何も言わず家を出る。


「久しぶり、せのり」
「久しぶりだね」
「うん、今日も可愛くしてきたな」

「別に…」

「そ…そか」

「そう!」

「…腹!減ってるか?」
「う、うん」
ぎこちない。

彼の自然が不自然で、不自然が自然に感じる空間。
与えられた台詞のようだ。
「んじゃ、映画の時間見てから飯でも食うか」
「うん」
「言うても俺はあんまり食べられへんのやけどね」
「食べてきたん?」
「いや、物食うと吐き気するねん」
「あ…大丈夫なん、お腹?」
「んま、食べたあと戻すかもしれんけどな」
「もう~無理せんといてよ~」
私たちはいつも琵琶湖が見える映画館へ向かった。
駐車場に車を止め、映画館のある雑居ビルへ。
彼の歩くスピードはやっぱり速い。
少しずつ距離が開くことに寂しくなった。
駆け寄ることが出来ない心境。
何故だか近寄れなかった。
ビル内へ入ると、店が立ち並び何本もの通路になる。
彼を見つけ出せなかった。
ゆっくり歩く足、左足を追い越すはずの右足を左足にそろえ下ろした。
ため息が出そう。
「遅い!」
彼が少し遠くから私を呼ぶ。
私はゆっくり彼に近づく、帰りたいかも…。
彼は私が近づくまでずっとこちらを向いて待っている。
彼に追いつくと「遅いな!」と彼は言う。
彼の左側に並ぶ私。
彼の左手が私の後ろで動くのを察した。
彼の手を私の左わき腹で感じる。
だけど、彼は私に触れてはいない。
彼との距離10cmを感じる。
触れてはいけないという思いが私の背中を押す。
しばらく触れずに重なって歩いていた私たちだけど、彼は「せのりは遅いな~」と言いながら、私の3歩前を歩き始める。
「これくらいの速さで歩くのが常識!」
「別にゆっくり歩いたっていいでしょ」
「周りと歩幅を合わせないと迷惑なの!」
「チビの大変さが解らんのか!!」
「俺の1歩がお前の3歩くらいやな」
「そこまで足短ないわ!」
「鞄持ったるで」
彼は左手で私の鞄を奪う。
「女の鞄持つの嫌いなんじゃなかったん?」
「今日の服装はお前の鞄にも合うしな」
彼はまた私の歩幅に合わせ、私の隣で歩きだした。
たまに肩が彼の腕に触れる。
軽く触れる程度なのにとても痛かった。


映画の時間を確認して、私たちは食事をとることにした。
半分くらい食べ終わり、彼が私のペースに合わせるかのように話し出す。
「あいつと最近連絡とってる?」
「あいつ?」
「食いながら話せよ」
「えーー、難しいこというね」
「お前の友達」
「うん」
「あいつからめっちゃ連絡あるねんけど、返事してないねん」
「返事すればいいじゃん」
「メールでなんか怒ってるねん」
「怒らすようなことするからじゃん!知~らない」
「俺、あいつに何かした?」
「知らない」
「知らんことないやろ」
「自分で何もしてないと思うならそれでいいじゃん」
「お前のことやろ」
「そう思うなら誤解とけばいい」
「誤解なんか?」
「ウチには言わなかったこと、前の彼女と別れたあとに言ったんじゃなかったの?」
「あぁ…」
「ウチには関係ない、ウチは何も聞いてない」
「あの時は本気でそう思ってた」
「何も聞いてないよ…ウチに言い訳したって仕方ないよ」
「そうだよな。今度返事してみる」
「あと、他にも聞きたいことあるって言ってたよ」
「何?」
「仕事のことと、暴力のことかな」
「何それ、俺に?」
「同業者の意見と男の意見を聞きたいんじゃない?」
「ふ~ん」
「仕事の話はわからないしね。暴力は、彼氏が直ぐ『殴る』って言うから怖がってる」
「暴力ふるうんか?」
「女には手をあげないっていうらしいけど、彼氏の友達が最近その彼女を殴ったらしく問題になったんだよ」
「そんな奴と付き合ってたんか…」
「ウチは男であっても殴る奴は最低だって言ったのよ。人を殴る瞬間に男女の区別がつく理性があるなら男であっても拳を下げられるでしょって」
「まぁな」
「ゆうじ、昔殴り合いの喧嘩した話したじゃない?」
「あれは防衛だろ」
「防衛であっても、ゆうじは拳を握る人なんだって思った」
「あぁだからあの時ちょっと引いてたんか」
「ウチは逃げて欲しかったんだ…。やっぱり殴りたいって思う気持ちを抱かないで欲しい」
「殴りたいとは思うだろう?」
「思わない…どんな事も言葉で伝えられると思ってる」
「そうだよな…」
「ウチには拳を握る人の気持ちが解らないから、ゆうじに聞いたらって言ったんだよ。随分前の話だけどね」
「そっか…俺、お前殴りたいって思ったこと1度あったな」
「え?!いつ?」
「あんまりチンタラしてるから、殴り飛ばしてやろうかなってな」
「酷い…」
「普段は可愛いと思えることも、気分次第ではイラつく」
「それってウチ悪くないじゃん」
「そうやで!そういうもんなんじゃないのかな~って」
「でも、殴らなかったのは何故?」
「殴るのはいけないことだと思ってるからかな」
「その時うち次第では、カッとなって殴ってたかもしれないよね」
「そうかもしれないな」
「ウチね、母親には中学までずっと殴られて育ったのね」
「それって…」
「いや、別に虐待とかそんなんじゃないと思うけど…よく解らない」
「よく解らないって、理不尽な事もあったってことだろ?」
「まぁね、ま、それはいいじゃない!でね、ウチも中学入るくらいまで自分の気分次第で弟を殴ってた」
「殴り合いの兄弟喧嘩か」
「うぅん、弟は一度も手を上げなかったよ。殴るのは当然、殴られるのは当然だった」
「どういう?」
「上下関係と忠誠心を植えつけられてた」
「母から姉、姉から弟か…」
「そうそう!で、ある日ね、何が原因だったか忘れちゃったけど、ウチが原因だったことだけは覚えてるんだけど、お母さんにウチか弟かどちらが犯人かって言うまで正座させられてたのよ。母の機嫌を損ねさせたのはどちらだって!殴られるのは嫌だったからずっと黙ってたんだけど、弟が『僕が悪いです』って言ったんだ。当然弟は殴られてた」
「弟がかばってくれたんだな」
「でね、ウチ、弟が殴られた分、自分で自分を殴ったんだ。その時初めて自分の拳がこんなに痛いものなんだって知った。自分の拳の痛さって知ってる?殴りたいと思う気持ちに相当しない重さだよ」
「つりあわないか…」
「この拳の痛さに相当することなんて今まで一度もない」
「それ、あいつに言ったのか?」
「何で殴られる側に言う必要があんの?」
「俺か!殴らないよ」
「そうじゃない、殴りたいなんて思うことがおかしいって言ってるんだよ」
「そうだな…」
「殴らなきゃいけない時は殴ればいいと思う。苛立つ気持ちを拳に乗せても軽すぎる。拳に乗せられる想いはとても大きいよ」
彼は自分の目の前で拳を作った。
「何か力入んねぇわ」
「殴るつもり?」
「殴りたい奴がいる…。お前の話聞いてたら…許したくないのに…」
「許せることなら許した方がいい」
「許せねぇよ…」
「あなたはその人の事知らなすぐるだけだよ」
「…お前、俺のこと殴ってもいいよ」
「ほんとう?殴るよ」
「避けるけどな」
「避けらんないよ~」
「おっ!いい拳だね~、顔だけはやめてね」
「解った♪」
「おい、その素振り…アゴに入れるつもりしてるだろ…」
「怒ってないから、軽~くね」
「おぃおぃ」


残りの皿をさらけ、店を出た。
彼が殴りたい人とはきっと、顔も知らない父親だと思った。
父親の話をする時の顔をしていた。
私に殴らせたかったのは、私に殴る許可でも得ようとしていたのだろうか。
彼の母親を捨てた彼の父親、私を捨てた彼は同じ?
私は彼を殴りたいとは思わない。
彼の拳に込められた想いを消し去ることが出来たらいいのに。



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250.記憶の差し替え

「お嬢ちゃん、南小学校まではどうやっていけばいいのかな?」
「この道真っ直ぐ」
「真っ直ぐって、見えないからわからないよ」
「真っ直ぐだもん」
「でも、ほらこの地図見て!沢山道があるよ」
「でも真っ直ぐだもん」
「お兄さんわからないから車乗って道案内してよ」
「……真っ直ぐ」
「怖がらないで!んじゃ、この地図で教えてよ、ね。こっちまで来て」
小学校1年生の私は、南小学校からうねってはいるが細い1本道を通り下校していた。
歩道のない車が譲り合いながらすれ違えるほどの道で停車している車の中から、男性に声を掛けられた。
自ら「お兄さん」と言っていたが、私にはおじさんに見えた。
それはその頃の記憶で、男性の年齢は定かではない。
子供ながらに警戒していた私は、その車から少し距離をとり、本当に困っている人だったら申し訳ないという思いから、南小学校へ早く行ってもらおうと試みていた。
何故わからないんだという苛立ち、仕方く私はゆっくり運転席に近づき、窓から出された地図を覗き込む。
「今、ここでしょ?」
「多分、こっち」
「でも、お兄さんずっとこの道を通ってきたんだよ」
「でも、ここだもん」
「わかんないな~、ここから来たんだよ?」
「うううう…」
「あぁ、お兄さん怒ってないから大丈夫だよ!えっと、ここは何処だっけ?」
「ここ」
「何処?しっかり指してみて」
「ここ」
「手ぇ、パーってして」
そういうと男性に手首を掴まれる。
「あ…あぁぁ…うぅぅ~」
声にならない声が出る。
何故、やめて欲しいと言えなかったのか。
「大丈夫大丈夫、ちょっとだけ」
地図を放り出した男性は性器をむき出しにしていた。
そしてもう片方の手で、自分の性器を撫で始める。
「こうやって触ってみて」
「ばっちぃ~(汚い)」
「おしっこはしないよ」
「ばっちーぃ」
男性は私の手に性器を擦り付けた。
「うぅぅぅ~うぁぁあああうぅ~」
「ほら、大丈夫でしょ?」
家に帰って母親に話をすると「あんたがボケ~っとして歩いているからだ」と言われた。
「誘拐されなくて良かったわよ!」とも言っていた。


食事をするのが遅かったのと嫌いなものが多かった私は、午後の授業を食事に費やし放課後まで食べていた、小学3年生。
誰もいないはずの放課後、食べ終わった食器を給食室まで運び教室まで戻る途中に同級生の男子3人とすれ違う。
「お前やっと飯くったん?」
「うん」
「お前いっつも5限目給食だしずるいよな」
「食べろって言われるからだもん」
「今度から俺たちが食ってやろうか?」
「ほんま?」
「交換条件だよ」
「こうかんじょうけん?!」
「食べる代わりにお前も何かする。裏切りなしの約束のことだよ」
「ふ~ん」
「ちょっとここの教室入れよ」
「ダメだよ!ここ違うクラスだもん」
「放課後だからいいんだよ!」
私たちは一番近くにあった教室に入る。
カーテンの閉まった教室は少し薄暗かった。
暗いのと他の教室へ入る事はいけないと教えられた事から少しドキドキしていた。
「何?」
そう言うと、カチッと音がする。
「何で鍵しめるの?」
「パンツ脱げよ」
「やだ!何でよ」
「お前、エッチしらないの?」
「し、知ってるよ!!」
「何だよ~言ってみろよ」
「男が女の体見て喜ぶんでしょ!不潔」
「あははは、こいつアホや」
「何よ!」
「ホンマはもっと知ってるんやろ!おっぱい大きいって事はエッチな証拠や」
「エッチじゃない」
「おっぱいって揉んだらおっきくなるねんで~」
「違うもん」
「触ったら、女はあ~んあ~んって言うんやろ」
「知らん」
「知ってるって言うたくせに~」
「俺らにも触らせろよ」
私は二人の男子に腕をつかまれ、一人の男子に胸をそっと触られる。
「触るなすけべ!」
「うわ!こいつブラジャーしとる~」
「エロエロや」
「パンツ脱げよ」
「やめろ!」
私は足をバタつかせた。
蹴りを入れたかったけれどうまくかわされ暴れた所為で腕を羽交い絞めにしている男子により力を入れる切っ掛けを与えてしまった。
「女のアソコ触ったら気持ちいいんだってよ~」
「痛い」
「パンツ脱げって」
「すけべ!変態!アホ!最低!」
「このまま手ぇ突っ込んだろ」
「ちょ!ちょ!やめろ!うぅぅ痛っ!嫌!痛~い」
「おっかしいな~パンツ脱げって」
「嫌ーーーーー!」
「女のアソコってどんなんなってんだ」
下着を膝までズリ下ろされ、下着が伸びる限界まで足を広げられ、腕を掴んでいた男子に後ろへ引き倒され、膝を胸につける状態にさせられた。
「うげっ!エグッ!」
今まで私の体を触っていた男子が、私の服で手を拭く。
「汚ねぇ~、エロエロ菌がうつる」
家に帰って母に股間が痛いと告げる。
大陰唇と小陰唇の間がパッカリさけていたらしい。
私は「ぶつけた」と嘘をついた。


何故か私は今の今まで、幼い頃に誘拐されかけた事と股間をぶつけた事だけを記憶していた。
否、記憶とは違う。

だけど、怪しい人という警戒心と股間の痛みは事実であり、記憶違いであることに疑いもしなかった。
いわば、記憶の差し替えの成功例か。
否、もうどちらが事実かわからない。
こんな事思い出してどうなると言うのか…。


付き合いたいと言ってきた男性に私は必ず言った。
「セックスがしたいんでしょ?いいよ」
それが当然だと思った。
駆け引きなしで裏表なく曝け出せばいい。


そっか、私はセックスが怖いんじゃない。
男が怖いだけなんだ…。


だから…何?!


何でよ…私が悪いんじゃない。
強くなれって?!
無理だよ…。


生まれてこなければ良かった…。


あと、どのくらい男性の処理をすればいい?


彼だけは違うと信じたいのに、涙が止まらない。
私と恋愛したのは何故?
「セックスしたかったんでしょ?」聞けやしない。
彼は私の特別だ。
彼は私の親友なのだ。



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249.愛の復讐

「それで!?また戻ってまた繰り返すわけだ」
「別に繰り返すわけじゃないよ」
「で、これからせのりさんはどうしようと思ってるわけ?」
「どうするって?」
「また待つわけ?!」
「別に…待たないよ。もう恋愛することはないんだし」
「ねぇ?あんたらの関係って何?」
「友達…なんじゃないの?!」
「友達…」
「変かな?」
「あんたらみたいな恋愛がしたいと思った私はどうすればいいのって事」
「…それぞれって事で、そういう恋愛もありなのかもね」
「戻ってくる!あいつはあんたの所に絶対戻ってくる!」
「はぁ?」
「戻ってこなかったら私がトラウマになりそう」
「振られたのはウチなんですけど…」
「同じ希望を見てた…って事かな」
「…うん、実際振られる気しなかったな」
「結婚したらさ、徐々に恋愛感情は薄れていくもんじゃん」
「さぁ?結婚したことないからどういう感覚なのかは解らないな」
「んでも、よく言うじゃん」
「まぁね」
「そんな恋愛感情を基準に選ばれたら一生のパートナーなんて見つからない」
「まぁね…何回離婚しなきゃいけないんだってね」
「あんたらのタイミングって別れじゃなくて一生を誓うタイミングだったんじゃないの?」
「知らない…」
「当事者じゃないのに本当騙された気分」
「ゆうじのこと嫌ってたのに何でそんなに信じきってるわけ?」
「やっとの幸せだったから…」
「え?!」
「ウチがせのりやったら、今絶対笑って生きてない」
「ウチってそんなに不幸か?!」
「ウチん家も最近ヤバイんよね、親。男運も悪い…。それだけでも不幸だなって思うのに、あんたと分かり合える傷はたった2つなんだよね…」
「うん…」
「親にも寄り戻して欲しいし、今の彼と結婚出来れば良いなって思ってる。今ある幸せを失ったらもう二度と戻らない気がする」
「うん…」
「恋愛がしたいわけじゃないじゃない…。振られたらまた別の男に出会えるのはわかってるけど、それなりに幸せ感じるんだろうけどさ…取り戻せない幸せってあるよ…」
「うん…」
「両親が離婚したって、自分の親には変わりないけど、違うじゃん」
「うん…」
「言ってる事矛盾してるかもしれないけど、あんたらは恋愛じゃないとダメなんだって…」
「言ってることは解る。でも、ゆうじにはそれ以上の幸せがあったんじゃない?」
「その女に何があるっていうの?!」
「さぁ?」
「彼女と別れて、せのりを幸せにするって私と約束して、入院して、それから何日も経ってないじゃん。その女の何が解るって言うの?!こっちは3年付き合ったって彼氏のことよく解らんくて、本当に好きなのかさえ自分で不安になることもあるのに」
「たった一つ、何かあればそれでいいよね…」
「……」
「あんたの彼氏も浮気ばっかりしてるけど、あんたの傷癒すものがある」
「せのり、これから恋愛できる?」
「出来るわけないじゃん。そのたった一つは掛け替えのないものだった」
「せのりに強くなれなんて私は言えない…」
「ゆうじには強くなるって言ったけど、ウチは、強くなる気なんて更々ない」
「多分両親はダメ…彼氏にはいつ捨てられるかも解らない状態…。それでも他の幸せを見つけないのは、やっぱり弱さとかじゃない……何?」
「え?!フリ??!!何でオチをウチが言わなきゃいけない」
「いや、えぇこと言えそうな勢いやったけど、出てこんかった」
「もぅ~!ちゃんと考えてから話してよ」
「流れ的に、せのりなら何かいいこと言いそうじゃん」
「やめてよ~!こっちだってソコで悩んでんのに」
「やっぱダラダラ付き合ってるのって甘えてるのかな?てか、強さって何?」
「理想…じゃない?」
「理想…」
「今、何考えた?」
「今の仕事がうまくいって、彼氏と…結婚したいなって」
「今の仕事がうまくいってない、彼氏には愛されてない気がしてるのに付き合ってる」
「そうだね」
「そこに甘んじず、もっとやるべき事があるんじゃないのって事でしょ」
「自分にあった仕事見つけて、幸せな結婚が出来る相手を見つけるって?」
「でも他の仕事をしたいとも他の男と付き合いたいとは思わない」
「だね…」
「所謂それは逃げになるんだろうね…私こんな事やりたかったわけじゃない!的なさ」
「だね…」
「理想と現実のギャップがあって、理想を手放さず諦めないことなんじゃない」
「諦めない…」
「彼氏の浮気を許してるからダメに思えるんでしょ…」
「そだね…」
「依存は大きな傷を生む。それを失ったら代わりなんてないから…。職種を問わず仕事を頑張れる人、どんな恋愛にだって幸せを感じられる人だったらいいけど、やっぱり人は何かに依存してしまう。だけど、その依存はすごい強さを生むと思うんだよね。なんだって出来る気がする。ただ、それを失う怖さが甘えに転じるんだろうね」
「…恋愛がうまくいくと仕事ってうまくいくよね」
「ナイス例え!」
「って、何の話だっけ?せのりの話してた筈じゃん」
「あはは、ウチは強くなる気はない。弱いままでも、ゆうじが側にいてくれさえすれば、なんだって出来る気がするかな」
「それは恋愛じゃなくてもって事?」
「そりゃ恋愛であればいいけれど、そこにしがみ付くわけにもいかないじゃん。ゆうじは今ウチにとって、生きる証拠かな。嘘をつかない人がいる、裏切らない人がいる、愛してくれる人がいる、ウチは一人じゃないんだって証拠。ゆうじが側にいてくれれば、また誰かを信頼できるかもしれないって思ってる。またか…そうは思いたくない。だから、側にいて欲しい」
「結婚匂わせといていきなり振られて、裏切りだとは思わないの?恨むでしょ」
「不思議だけど、ない!彼女にはなりたかったけど、信じてたのはずっと一緒にいられることだった」
「確かに裏切りじゃないけど…」
「でもさ、復讐って頭過ぎったんだよね」
「…あんたさ、彼女になってたらどうしてた?」
「え?!急になに?喜んでたんじゃない?」
「…せのりの傷って本当に癒えてるのかな?」
「何?」
「一人の男に依存するのって、好きだからじゃなくて復讐なんじゃない…」
「な、何で?」
「純粋過ぎるからそう思うのかな…。ウチ以外の人と話もしないあんたが、何であいつには!?ってよく考えたら思う。もし、ウチがあんたを裏切ったとして、まだウチを信用してるとしたら、これ程にない辛さだと思う。顔向けできなくて耐えられないかも。それにミッチー…」
「誰?」
「覚えてないの?!前の前の…ん?前の前の前の…ん?」
「あぁ、み…三…三…?」
「三木浩」
「そんな名前っけ?」
「プロポーズした男も名前覚えられてないなんて立場ないね…」
「あぁぁ…」
「思い出した?」
「あれとは違うよ。セックスだけだったもん」
「婚約破棄までさせといて、プロポーズされてポイやもんな」
「付き合う気はないってお互い言ってたのにね。色んな傷見せて、理想語ってたら責任感じたんじゃない?あの後直ぐ彼女出来て結婚したじゃん。お前と出会わなければ前の彼女と結婚してたし、お前とも結婚せずに彼女と出会うことができた~とか言ってたし」
「その後は知らんけど、本当の愛を知ることができた~とか言ってたよね」
「婚約しといて、他の女と同棲するような男が言う台詞かよってね」
「そういや同棲してたな」
「何故かお小遣いもくれてたで」
「ヤバイ生活やな」
「本当の愛ね…ゆうじも似たような事言ってたな」
「それって本当なんじゃないの?」
「え?」
「あんたに関ってると本当なんでもないことが真剣に思える」

「皆同じこと言うんだね」

「言葉悪いけどさ…自分で傷を負わなくても痛みが解るっていうか…」

「いいモルモットだ!」

「もう浮気はさせない。体を張った復讐…」
「そんなつもりはないよ~。何?!その正義」
「いや、復讐って聞いてそう思っただけ…」
「ウチは…自分の事しか考えてない…よ」
「ん?」
「ゆうじもさ、俺に彼女がいなかったら…とか言ってたんだよね」
「ミッチーの事知ってるからじゃないの?」
「あぁそれもあるか!」
「でも、本当に最高の恋愛だと思うんだけどな」
「だった…ね」
「戻ってくるよ…」
「そんなこと言ったら期待する…」
「期待してるんでしょ」
「裏切られたと思いたくなくて…」
「そうだね」
「理解しようとすれば、自分が彼を裏切った気になる」
「え?」
「信じれなかった…って」
「なんか、残酷…」
「その呟きの方が残酷だよ」
「あはは、ごめん」
「どうしたらいいのか解らない。ただ、感じるままに好きでいることしか出来なくて」
「ほんとに…やっとの幸せだったのに…」
「ウチを不幸扱いするなよ~」
「あはは、涙、止まった?」
「マシだよ。もう直ぐ止まるんじゃない?」
「なんか何もかも失ったって感じだね」
「得るものは、恐怖の記憶ってね」
「笑えないって!」
「もう少し頑張れそうだから…」


親友と夜通し話し込んだ。
口走る思いに心があったのかどうかは自分でも解らない。
そう言えば、友達という関係もよく解らないかもしれない。
彼とはどう付き合っていけばいいんだろうか。
ちゃんと学校行っておけばよかったなと、今更ながら思ったり。


涙が流れる。
悔しい…涙…か?!
心がむず痒くて頭をかきむしる。


もう嫌だ、楽になりたい。



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248.あの頃に戻ろう

時計の秒針を目で追った。
3週も時計を凝視していると眉間が痛くなる。
また時計を見る、4分を過ぎたところだ。
彼に催促のメールを打ちたくて仕方なかった。
携帯のメール受信ボックスを開く。
連絡すると言う彼とたった5分前に届いたところなのだという事を確認して携帯を閉じぐっと我慢する。
ネットでお気に入りのホームページを見たり、パソコン内臓のゲームで遊んだり、週刊ジャンプを読んだり、読みかけの文庫を開けて直ぐ閉じ、基本など知らないストレッチをする。
上手く時間を潰せなかった。
たった30分の間にコレだけこなせれば大したものだが、どれを取っても無駄に終わってしまった。
ふと、目に入ったノート。
私はノートを手に取り1ページ1ページ見開いた。
彼と出会ってから彼のことだけを書き留めたノート。
日付は敢えて書かなかった。
彼との時間に、時を刻むという概念が私にはなかったのだ。
もう既にこの頃から限りなく永遠に近いものを感じていたのかもしれない。
途切れぬことのない関係に刻む時は必要ない…。
何年経っていようが彼は彼だった。
ノートを読みながら、私は時を数えた。
あと、どのくらいこのノートは続いていくんだろうか…。
彼との縁を自ら切ろうとした時も私はこのノートを持ち歩いた。
それが自然だった。
私は今このノートを手放したい。
相変わらず涙は止まらない。
私は何故泣いているんだろうか。


涙は逆に感情を誘発させる。
感情ありきの涙を、涙が出るから悲しいのだと逆転させる。
心がどんどん震える。
息は荒くなる。
私は一体何を考えているのだろうか。
聞こえるのは「落ち着かなきゃ」の1点。
何で…こうなんだろう。
彼と話がしたい。
彼に「何を考えてるの?」そう聞かれるだけで、気づける。
言葉を詰まらせながらも、吐き出せる感情。
彼が居なきゃ…。
鞄の中をあさった。
コレを無意識というのだろうか。
心療内科で貰った薬を1錠飲んだ。
この薬に即効性はない。
だけど、飲んだという事だけで少し安心する。
息は荒いながらも、もう直ぐ楽になるという安心感が徐々に私を落ち着かせた。
しばらくすると、頭がスカーンと軽くなる。
興奮状態を抑える薬で動悸や不安を抑える効果がある。
つまり、無理やり脳の信号を遮断させるという事なのだろうか。
心という臓器がないという事を改めて感じた。
心は心臓付近に存在するかのように私たちは胸に手を当てる。
苦しくなるのもこの辺りだ。
なのにそこには何もない。
息は少し荒いが、軽くなったのは頭だった。
不思議だけれど苦しい・辛い・悲しいとか感情が消えたわけではない。
何も変わりはしないのに、ぎゅっと締め付けられる重さと、どうしようというモヤモヤだけが消えたのだ。
そして思う、心臓が痛いと…。
脳が創る幻、私は今胸に手を当てようとは思えない。
妙な爽快感。
私は重く苦しい心を探した。
利口な頭は、彼を理解することのみが残った。
仕方ないよね…流石の脳だ、直ぐに解決へと導く。
でも嫌だな~、そう思った私は何だか棒読みで嘘みたいだった。


どれくらいこの薬は持続させるのだろうか。
このまま彼と話をしたら私はどんな言葉を吐き出すのだろうか。


0時を過ぎ彼と連絡を取ることが出来た。
繋がってからしばらく無言の時が続いている。
時折彼のため息だけが聞こえてきていた。
「何も話すことはないの?」
「話をしてくれるのはゆうじの方でしょ…」
「そうやったな…」
「ゆうじが何ヶ月もかけて考えてきたことを、2日で理解しろって事の方がおかしいよ」
「そっか…」
「ずっと側に居てくれるんでしょ」
「それはどういう意味で?」
「それを話して欲しいんだよ…」
「あぁ…恋愛じゃなく、せのりを守ります」
「恋愛じゃなく?」
「出会った頃、お前に抱いた感情は今もそのままで、守りたいとは思ってる」
「そ…つまりは、出会った頃に戻りたいって事だよね」
「お前は戻れるのか?」
「ウチね…側に居てくれるだけで十分なんだ…彼女になりたいなんて高望みだった」
「本気で言ってんのか?」
「嘘ではなかったけれど、言葉にするには早かった気がする。全部、受け入れたいっていう思いから出た言葉だった。こうしたら喜ぶだろうなこう言えば喜ぶだろうなってそればっかり考えてた。それが、ウチの喜びでもあった」
「お前、やっぱり…」
「そだよ~、セックスなんてしたくなかった。ゆうじの側に居られるならって…思ってた。明日も一緒なんだって確かめられることが幸せだった。多分…」
「嫌やったか?」
「うぅん、全然嫌じゃなかった、気持ちよかった」
「そか、そか!」
「ゆうじ、すごく優しかったし」
「まだ癒えぬ傷なんだろうなって思ってた」
「うん、怖かった…。セックスの後ウチ話さなくなるでしょ」
「あぁ、気づいてたよ。子供みたいに親指しゃぶる癖とブルブルと震える体、寂しく悲しい目を見てるといつも抱きしめたくなった」
「ウチが、始めに望んだ関係がこれから続いてく、そうだよね」
「…お前は、今も俺に合わせてるんか?」
「…それじゃだめ?」
「お前の意思はどうなるんだよ!」
「だって一緒に居たいんだもん。何かを犠牲にしなきゃ一緒に居られないなら、ウチはそうする」
「俺はお前を抑え付けたくはない」
「だったらセックスしてくれる?」
「…できないよ」
「ゆうじだって、我慢するんでしょ」
「我慢なんてしない」
「我慢じゃなかったら何?」
「お前をもう抱きたいとは思わない」
「ねぇ、ゆうじは何処に戻ろうとしてるの?あの頃、ウチを抱きしめてくれたのは何故?」
「確かに、戻るものではないかもしれないな。あの頃お前に抱いた感情を恋愛かもしれないと思っていた。だけど今は違う。違うと思えば自然に触れたいとは思わなくなる」
「そ…だったら一晩中一緒に居たって安心だね」
「俺も男ですけど…」
「ゆうじもやっぱり、性欲処理だけの為にセックスしようと思うんだね」
「そういう気持ちにはなるけど、やらないだけだ」
「んじゃ、我慢じゃんよ!」
「もうどっちだっていいよ!!」
「…何かを守りたい時、何かを抑えても守り通したいものってあるでしょ」
「そうだな…」
「ねぇ、何で恋愛じゃないって思ったの?」
「恋愛じゃないというか、前の彼女にしても今好きな人にしてもコレが恋愛なんだっていう言葉には出来ないけれどそう感じるものがあった…からかな」
「ウチにはなかった…」
「お前に抱いた感情は特別だった。だから悩んだ」
「でも、前の彼女は違うって思ったんでしょ?」
「不思議だな…」
「ウチもいつか、ゆうじへ抱く想いが恋愛じゃないってなるかな?」
「……」
「何か言ってよ!」
「こんな事言ったら卑怯なんだろうけど…お前には言わなきゃいけないような気になる」
「何?言っても大丈夫だよ」
「何で…お前のこと恋愛だと思えなかったんだろう…って」
「ね…」
「俺、本当にこんなに必要とされて頼られる事なんてなかったし、今まで何となくでいきてきた。弱い部分隠して強がって…お前と居るとコレじゃダメだなって思わせられる。弱いお前を支えながら、強いお前に支えられた。強くならなきゃって思った…そしたら、お前と過ごす時間は弱さの俺ばかりだった。甘えてたって思ったんだよ…」
「うん…わかる。ウチも、ゆうじが居てくれるんだったら、今のままで十分だって思った」
「お前には、俺だけじゃなく誰にでもそういう事の出来る人になってもらいたい。支えあうだけじゃなく、成長できる関係でいたい…」
「ねぇ、好きな人ってどんな人?」
「どんな人って…?!」
「う~ん、どんな風に愛してるのかなって」
「あぁ、難しいな…。今言葉にするならば、成長した上で目指す俺が将来愛する人かな」
「漠然だねぇ~」
「言葉にならない」
「じゃ…今は愛せないの?」
「今は、彼女に対して何もしようとは思わないよ」
「強くなるの?」
「そう…しばらく独り身で仕事や自分の人生のこと頑張ろうと思ってる」
「ふふっ…そう」
「何で笑う?」
「ちょっと嬉しかったから。ゆうじが他の女性とデートとかするの嫌だもん」
「もう話さないよ…」
「何で!?」
「お前に彼女の話をするべきじゃない」
「そんなことじゃいつまで経っても強くなれないよ」
「あはは、お前が言うなよ!」
「ねぇ、可能性の話をしてもいい?」
「何?」
「コレから先、ゆうじが私に対する想いを恋愛だと思うことはあるかな?」
「俺は、あの人を愛してるよ」
「可能性として1%でもあるのならYESって言って欲しいの。優しい嘘なんていらないの」
「あの頃に戻れるか?」
「うん」
「傷つけてばかりでごめんな…可能性はあるよ」
「あの頃に戻るけど、ウチ、ゆうじの事愛しちゃったんだ。ずっと好きで居てもいい?」
「それじゃ辛いだろ?」
「今までと辛さは変らない気がする」
「ごめん…」
「謝らないでよ…好きでいてもいい?」
「お前はそれでいいのか?」
「うん!ゆうじと同じじゃない?愛しちゃったら諦められないんだよ」
「あぁ」
「何処まで好きでいい?」
「何処までって…?!」
「好きって言ってもいい?」
「ダメ」
「ダメなんだ…また今まで通り遊びに行こうね、大好き」
「あぁ今まで通りな!好きって言ったら嫌いになるぞ」
「それならそれで構わないよ」
「強くなったな」
「これからももっと強くなろうね」
「あぁ」
「もうシカトしないで…」
「あぁ」
「好きな人の話はしないで」
「強くなるんじゃなかったの?」
「だってさ~」
「もしさ、好きな人と上手くいったらどうするん?」
「ムカつく!」
「そらそうやわな、ごめん」
「うぅん、でもね、告白する時はちゃんと報告だよ」
「あぁ、ちゃんと言う」
「…ゆうじはもっと素直になったほうがいい」
「何?!俺、素直じゃないか?十分、勝手きままやけど」
「ゆうじの心が深い…」
「はぁ?」
「ウチじゃなくてもいいけど、もっと話しなよ」
「結構色々いってるけどなぁ?」
「そう。それならいいんだけど」
「なんだよ!」
「恋愛かどうかなんて解らないけど、一生あなたを守るって思った」
「どっかで聞いたことある台詞だな」
「あなたの言葉だよ」
「…俺、最低な男だよな」
「そうかな?私にはいぃ男に見えるよ」
「お前だけだよな、そんな風に言ってくれるのは」
「ウチ、そんなに変じゃない!あなたに触れた人間はきっとそう思うに決まってる。浅い関係じゃあなたの良さは解らないよ!」
「だと良いけど、お前結構変ってるよ」
「何かムカつく」
「褒め言葉やで」
「あっそ!」
「…ん?泣いてんの?」
「気にしないで、多分、喜んでるから」
「何だよそれ」
「今日、病院行ってきたんだ」
「それで…?」
「見つけた未来を否定したいと思った」
「ん?」
「また、時が来たら話すよ」
「そっか…何かあったら電話してこい」
「その手には引っかからない!」
「何だよそれ」
「ゆうじが電話に出ることなんか殆どないもん」
「それは悪かったって」
「ちゃんと話聞いてくれるの?」
「仕事が忙しいのは本当理解してくよ」
「わかったよ」
「俺、お前になんて言えば…」
「ウチね、幸せだよ」
「幸せ…か…」
「好きになってセックスして愛し合う普通の恋愛はできないかもしれない。彼女ってのにもなったことないし、恋人ってものがどういうものかなんて知らない。ゆうじが感じた恋愛を理解することは出来ないかもしれないけれど…後悔してないし、ウチは確かにゆうじが好きだって言える。愛なんて知らないのに、変だね」
「恋愛に形なんてないだろ」
「そうだね、形にハマらずゆうじがウチを好きになればいいのに」
「それ以上言うとなぐるぞ」
「…いいよ、本当のことだもん」
「泣くなよ…」
「振られたら悲しいでしょ!ゆうじも振られたら悲しいでしょ」
「そうだな」
「明日からまた楽しくなるね。親友だよ、性別を超えた絆だよ~」
「あぁ…」
「ん?何か言いたそうだね?」
「んぁ?お前にならいつか話せるかもしれない」
「うん!待ってる」


彼との恋愛は終わった。
プラトニックに愛し、形に惑わされセックスをした。
交わることの快楽は時に愛を見る。
どんな愛かなんて私たちは知らない。
強要されたわけじゃない。
溺れたわけじゃない。
それは、ただただ自然に流れていった。
愛ってなんだろう。
恋愛とは違うの?
プラトニックに愛しいと想う。
私はそれを愛と呼ぶ。
私はそれを恋愛と呼ぶ。
私の彼女じゃない恋愛はこれからも続いてゆく。


音を立てる呼吸。
また、発作が起こるのか?
私は彼を理解した。
納得して、コレでよかったんだと言えるじゃないか…。
目の前が一瞬真っ白になる。
貧血?!
次の瞬間、今まで体を交わらせた男たちの顔が浮かぶ。
一瞬だった。
中には名前も知らない男だっている。
嘆き忘れた感情…そうだ、もっと思い出さなくちゃ…。


復讐…?なにそれ…。

突然頭を過ぎった言葉だった。

今、そんな言葉を思い描いた自分がとても怖かった。

彼に対してそう思ったのだろうか…それとも…。



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247.アダルトチルドレン

止まらぬ涙は昼になっても乾くことはなかった。
感極まって涙が溢れ出ても涙は直ぐに止まるもの。
心を取り残し、もう少し泣いていないのにって事の方が多い。
涙の止め方など私は知らない。
普段流れる涙とは違うようだ。
じんわりと溢れ、まばたきと同時にこぼれ落ちる。
目じりがキリリと痛い。


昼過ぎ、何度か部屋を覗きにきていた家族が病院へ行ったほうがいいといい始めた。
落ち着いていると思っていたのは自分だけだったようだ。
長く過呼吸と付き合ってきて、発作の予兆は私よりも家族の方が知っているのかもしれない。
そう言えば、呼吸の変化に私よりも彼の方が早く気づいていたっけな。
半強制的に出かける支度をさせられ、私は家族に連れられ病院へと向かった。
私は結構、周りの環境に影響を受けやすいので、病院へ着く前には元気になっているタイプの人間だ。
発熱で病院へ行っても、診てもらう頃には微熱さえないという事が多かった。
そして家に帰るとまた、発熱する。
だから私は思う、病院など行かなくともしばらくすれば治るのだと。
だけど、病院へついても涙は止まることがなかった。
持参したティッシュペーパーは水分で溶け始め、ボロボロと細かいクズが指の間に張り付き不快感を煽らせる。
病院のフロント待合いフロアのソファーに座っているよう家族に言われる。
受付所に向かった祖母、その姿を目で追った。
地声のデカイ祖母の声はTPOを弁えず響き渡る。
「孫の様子が今朝からちょっとおかしいんやわ~。何処で診てもろたらえぇやろか?」
当然、受付の女性の声は聞き取れない。
「おじいちゃん!違う、このボタンや」
受付をする機械の前で祖父母が奮闘中らしい。
当然、祖父の声は聞こえない。
そしてやってくれる祖母。
「せのりちゃん、こっち~」
ここからは身長2cmに見える祖母が叫ぶ。
違う涙が出てきそうだ。


ここは全国でも結構有名な大きな病院だ。
十数年前にはアトピーを和らげる治療で多くの人が集まった。
今も昔も最新機材を取り揃えている立派な病院。
病院食を作っているのは、元某3星ホテルシェフというのは知る人ぞ知る話。
それだけに広い。
どうやら内科に行けと言われたらしいのだが、たどり着く前にノックアウトである。
駆け寄る看護士に紙袋を渡される。
手足がしびれるのは過喚起症候群の典型症状だ。
だが重病人ではない。
意識を失うまでは自力で頑張らねばならないのだ。
どんなに息苦しく辛いものでも、死なない病気。
「ヒィーヒィーフー」
祖母が私の背中をさすりながら言う。
私は妊婦ではない。
因みに、言うならスーハースーハーである。
このような事を考えられているのだから、まだ大丈夫だろう。
そのうち治る…。
私はこの紙袋呼吸法が嫌いだ。
シンナー吸ってる不良のようなイメージを思わせる。
私は紙袋を受け取りはしたが、未使用のまま握り締め、また立ち上がり内科へと向かった。


内科前待合ソファーで診察の順番を待つ。
涙が止まらない私に、看護士がティッシュを箱ごと手渡す。
アバウトな対応に感謝する。
出来ればゴミ箱も欲しかった。
指の間に挟まる小さな紙クズを集め、とりあえず新しいティッシュに包みまとめた。
涙は枯れないが、不快感だけは取り除けた。


診察室に呼ばれ中に入る。
椅子に座るなり、「過喚起症候群」ですよねと言われる。
う~んと何かを考えているようで医師は唸った。
「とりあえず、おばあちゃん外で待っててもらえますかね?」
どうやら祖母は心配でついてきたらしく、入り口付近で聞き耳を立てていた。
看護士に連行され行く祖母を見送る。
「何度か診てもらってるみたいだね」
「はい」
「話は聞いていると思うけど、病院じゃ薬を出すくらいしか出来なんだよ」
「はい…」
「この病院にも心療内科はあるけれど、今日は午後やってないんだ」
「はぁ…」
「君次第なんだが、診てもらうなら紹介状を書きますがどうしますか?」
「苦しいです…」
「薬じゃ治らない場合もある。先生内科専門だから治してあげられないかもしれない」
「涙が止まらないんです…」
「薬じゃ止まらないだろうと思うよ」
「それは…?」
「内科に涙を止める薬がない」
「そっか…」
「とりあえず、心肺検査して内科で出来る検査をやってから決めよう、な!」
医師に言われるままベッドに横になり、3・4個の検査器具をいっぺんに取り付けられた。
看護士が取り付ける前に説明してくれるのだが、サッパリ解らない。
しばらく、身動きが取れない。
ピコン…ピコン…ピコン…と、心動を計る音だろうか、妙に緊張する音だ。
涙が流れ落ち、身動きが取れないながらも肩で拭き取ろうと試みてみる。
ピ~コン…ピコンピコン…ピピ…ピ~コン。
乱れる音に慌てて落ち着かせようとする。
「お疲れ様でした。診察室で先生がお待ちですよ」
看護士にそう言われ、診察室に戻る。
「やはり、酸素の量が多いね。うん、あとはギリギリ正常かな」
私が相槌をうたないので、医師は自ら相槌を打ちながら検査結果を伝えてくれた。
「今ね、心療内科専門の病院に電話してみたんだよ」
「はぁ…」
「話がしたいって先生言ってたわ」
「はぁ…」
「予約しなくても行きたい時に行けばいい、紹介先の先生にはそう伝えとくよ」
「いつでも…」
「そう!涙出っ放しじゃ何もできないだろ」
「はい…」
「これ、その病院の地図ね!今の検査結果を向こうの病院に転送してもいいかな?」
「はい、お願いします。ありがとうございました」
私が椅子から立ち上がると、看護士がドアを開けてくれる。
「おばあ~ちゃん!終わりましたよ」
看護士にそう言われ、駆け寄る祖母。
重病人扱いしているのは、祖母だけみたいだ。
「せのちゃんが大変なのに、おじいちゃんは、もう!!」
心配が膨れ上がり、祖母は祖父に当たっていた。
「おばあちゃん、そんなに心配されなくても大丈夫ですよ」
看護士に諭される祖母は少し悲しそうだった。


また待合いフロントのソファーに座らされる。
そしてまた祖母の声が響きわたる。
「え?!他の病院?!ウチの孫は精神に異常があるんですか!?」
少し苛立っている様子だ。
ストレス社会で今じゃ普通かもしれないが、戦時中に育てられた祖父母たちには少し荷が重かったようだ。
あなたの孫はイカれちまったっと言われているようなものなのかもしれない。
ショックの余り声も出なくなったのだろうか、祖母の声はそれから聞こえてはこなかった。


無言で近寄る祖父母に合わせ立ち上がる。
掛ける声もなく、私たちは駐車場へとトボトボ歩いた。


そのままの足で私は紹介された心療内科に連れて行かれる。
アジアン家具で飾られた心療内科の待合室は、リゾート地宛らだ。
祖父は車の中で待つと言い、祖母は必死で私の後を追いかけてきた。
受付を済ませた後、直ぐに名前を呼ばれた。
いくつものドアが並ぶ細い廊下を歩き、その中の一つの部屋へと通された。
当然の如く祖母も潜入。
椅子に座ると医師なのだろうかカウンセラーなのだろうか、白衣を着た男性に話しかけられる。
「こんにちは」
「こんにちは…」
「涙が止まらないんだって?」
「はい…」
「何かあったか?」
そう言われ、よりどっと溢れる涙。
「あぁ、ごめんごめん、大丈夫だよ」
私は何度か頷いた。
「ほら、せのちゃん!ちゃんと話さないと解らんやろ!」
祖母がやいのやいのとうるさい。
「とりあえず、おばあちゃんは外で待っててもらおうかな」
また祖母は連行さてゆく。
「今日はおばあちゃんが付き添い?」
「爺ちゃんが車で待ってます」
「今みたいにおばあちゃんは結構干渉してくるのかな?」
「はい、うるさいです」
「あはは、そうみたいだね。ご両親は?」
「父が家で仕事をしています。母はいません」
「そっか~悪いこと聞いちゃったかな」
「いえ、もう随分前のことですから」
「そっか、じゃおばあちゃんが家の事やってるのかな?」
「いえ、婆ちゃんは足が悪いので普段はゆっくりしてて、爺ちゃんと私でやってます」
「家事やってるの?」
「ご飯を作るだけですが…」
「そっか~大変だったね」
「そうでもないです」
それから今までどんな環境で暮らしてきたのかという話を30分ほど交わした。
「そかそか、大変だったね。好きなこととかはないの?」
「好きなこと…」
「普段好きでやってることとか」
「インターネットは好きです。それから精神保健福祉士の資格を取ろうと思っています」
「あ!じゃぁ、結構知識はあるんだね」
「まだ資格は取れそうにありません。自分に対して得られる知識は吸収も早いんですが、どうも他の事には…」
「そっか、自分で自分を元気づけようって始めたのかな」
「まぁ…」
「で、涙が止まらなくなったのはいつくらいから?」
「昨日の晩から…」
「話せることがあったら話してくれないかな?」
「…彼にふられました」
「そっか…悲しかったんだね…」
「そういうのとは違うような気がしています」
「ほぅ、どんな?」
「今もそうですが、感情がありません。何故涙が出るのか…」
「退行って聞いたことあるかな?」
「あ、はい、でもそれが何か関係が?」
「今流れる涙は、今の君のものじゃないかもしれない」
「…昔、流すはずだった…涙…ということですか」
「そうとは言い切れないけれど、感情のない人間なんていない」
「……」
「何故泣いているのかに気づいたらきっと物凄く痛い…」
「…かもしれません」
「支えだった彼がない…今まで耐えられた痛みに今は耐えられない」
またどっと涙が溢れる。
堪えきれず、漏れる声を押し殺した。
「本当に彼を信頼していたんだね…」


しばらく私はずっと泣いていた。
落ち着くまで待つという時間。
頭の中が彼でいっぱいだった。
彼と話がしたい…。


「こういう関係の本は呼んだことあるかな?」
その本にはハッキリと『アダルトチルドレン』と記されていた。
「本は好き?良かったら貸すよ」
アダルトチルドレンの知識は多少あった。
自分も多分そうなのだろうとどこかでは思っていた。
だけど、認めなかったのは、アダルトチルドレンの書籍には必ず「そうとは限らない」という言葉が付け加えられている。
それが私の逃げ道になった。
「私がアダルトチルドレン…と?」
「君は話の中でもう自覚してるんだろうなって節があった。だけど、それを跳ね除けようとする抵抗力も感じる。精神学の知識があるなら解るだろ?決め付けることが命とりだ」
「別の方法で治るかもしれないという希望です」
「……ネットでエッセイを書いているって言ってたけれど、それが真実であると決めるには早い」
「どういう…?」
「思い出せない記憶…多いんじゃないのかい?」
「……」
「文章に残してしまったらそれが全てになってしまう。思い出せないことは解らぬまま痛みだけが残る」
「思い出したくはないです」
「君の場合、心に傷が多すぎる。こんなにも痛みを引き受けてしまったら、感情など忘れて当然だ。だけどね、人は一つずつ嘆き悲しむことで消化するんだよ。彼と出会っていくつの傷が消えた?」
「沢山癒されたと思います」
「癒された傷はもう二度と痛むことはない、そうだろ?」

「わかりません…」

「彼が特別だったわけでもないんだよ。傷を癒したのは自分自身の力だ。思い出すのも自分、吐き出すのも自分、嘆くことで癒された。ただ、彼は心の傷を癒せる最愛の人であったと思うよ」
「思い出すことで涙が止まる…と?」
「それは解らない」
「だけど、もう…」
「書くという行為も悪くはない。だけど、書き終えた物をもう一度書いてみてもいいんじゃないかな」
「彼は居なくなってしまうのでしょうか?」
「それは誰にも解らない。居なくなったとしてもいずれまた…」
「彼じゃなきゃ…」
「君を愛している人は彼だけじゃない筈だ。君も沢山の人を愛さなくちゃいけないな」
「何となく見えてきた気がします」
「そうか、良かった。君には薬は出したくないんだけど、大丈夫そうかい?」
「え?!」
「苦しくなった時、来てくれてもいいし電話してくれてもいい。薬はその都度渡したい」
「何故…ですか?」
「心が計り知れない深さだからだよ」
「深い…」
「敢えて言うけれど、君は必ず死のうと思う筈だ」
「あは…断言ですか」
「ま、そう言えばしないかな…ってな」
「あはは、自虐はしません!」
「薬よりも話すってことが君には一番効き目がありそうだからね」
「話す…」
「薬は少しだけ渡しておこうかな。一気に飲んでも死なない量しか渡さないからね」
「信用ないな~」
「死を勝る心の傷などあってはならないんだ…。それでも生きたいと思う生命力が傷を隠そうとする。自虐なんてするような子じゃないって十分解っていても…」
およそ2時間にわたっての問診だった。
「おばあちゃん、心配してるだろうから呼ぼうか」
祖母が呼ばれいそいそと中へ入ってきた。
「ちゃんと話したの?」
「おばあちゃん!」
「は、はい」
「心配ないです、この子はとても強い子ですから」
「そうなんですよ、この子の両親が離婚した時もいつも何も言わず色々やってくれる子です。それだけに心配で…おばあちゃんには何も話してくれないから…嫌なことがあったら言ってくれたらいいのに…」
「言えないのと言わないのとは大きな違いがあります。たった一人にでも打ち明ければそれでいいんです。あとは笑っていてくれたらそれでいい、でしょ」
「楽しくやってくれさえすれば…」
「ちゃんと話してくれましたから大丈夫ですよ」
「悩みはなんだったんでしょうか?」
「おばあちゃん!何が問題であるかよりも、ただ側に居ることが大事だということもあります」
「でも早く良くなってもらわないと」
「余り干渉しないことです。家が好きだとおっしゃってましたから」
「そうですか…」

祖母の顔が責任を負ったような顔に見える。
「あ、ありがとうございました」
「はいはい、いつでも話聞きますからね」
それ以来無口になった祖母と祖父が待つ車に戻り家に帰った。


とりあえず、夕飯を作る。
ティッシュ持参で家族と共に食事をする。
誰もこの涙の理由を聞かなかった。
感情はない。


部屋で彼の連絡を待つ。
忙しいとしか言ってくれなかった彼の仕事がいつ終わるなど知らない。
夜9時を回っても連絡がない事が不安になる。
<連絡、くれるんだよね?>
<ごめんね、まだ仕事中だから、帰ったらちゃんと電話するよ>
彼との繋がりがあることにホッとする。



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追記

「アダルトチルドレン」という文字に黄色の背景色がついていましたが意味はありません。

6/7 0:36 修正しました。

Googleツールバーに「アダルトチルドレン」と記入したまま記事を書いたので、検索キーワードのハイライトが反映されていたようです。