彼女じゃない恋愛*愛した男には彼女がいた -64ページ目

愛を知らない(補足)


【14.企み最終幕の補足】

私は愛を知らない。

ただのコンプレックス。

親からも愛されなかったと思っているだけ。

好きな人からも愛されなかったと思っているだけ。

友達からも信頼されなかったと思っているだけ。

私が不登校になり、いい学校へ行けなかったから母は出て行ったのだと思っているだけ。

都合が悪くなって、利用できなくなったから男は私を捨てたんだと思っているだけ。

仲間という枠に入りきれずに、友に裏切られたんだと思っているだけ。

今の周りにいる人間は、まだ、私に利用価値があると思っているだけ。

人に心を開く事が私は何より怖い。



気持ちがあれば何もいらない。

そんな奴が一番理想の高い奴なんだなんて、よく言うよね。

理屈からすれば、ない気持ちを望んだところで一番与えられないものなのかもしれないけど、そんなドデカイ見返りを期待する方が変だけど・・・やっぱり、それが一番の理想だよね。


逆に考えて、本当に愛されていて愛していてっていうそんな空間に自分が立っていたとしたら、やっぱり私は何も望まないような気がする。

不安だから、それを確かめるように、好きだと言わせたり物をねだったり人を困らせたりする。


愛されないと愛せない。

愛せないと愛されない。


どうしたら、人を愛せるようになるんだろう。


私は幼い頃から受身の人間だった。

一番古い記憶の中の愛されたい感情を探してみる。

三歳くらいのように記憶しているけど、それは定かじゃない。

私は親の手を離し、迷子になってる。

捨てられたんじゃないかって思ってた。

いつも側にいる筈の親がいない。

そんな状況になったら、皆は親をさがすだろうか?

私は、探さなかった。

捨てられたんだったらそれでいい、そう思ってた。

本当に愛されてるなら親が見つけてくれるだろうし、誰かに拾われたっていい、そう思ってた。

それが、私の一番古い記憶。


三つ子の魂百までって言葉はその通りなのかもしれない。

私はずっとそんな生き方をしてきた。


母親が突然家からいなくなった。

その1年後、両親は離婚したんだけど、私は母親を追うなんて事考えなかった。

家族って無償の愛だと思ってたけど、そうじゃなかった。

母親は見返りを期待してた。

期待に応えられなかった私を捨てた。

家族を捨てた。

愛されないんだったらいいや・・・。そう思った。


友達は私に役目を与える。

友達というものは、暗黙に次から次へと条件が出来ていくんだ。

友達というものは、隠し事をしない、いつでも一緒、喧嘩なんてしないなどなど。

そして、私はそこにいるだけでいいという役目を貰う。

4人グループだから、4人じゃないといけないという変な決まりごと。

私がその場を離れるだけで、友達から批難の声を浴びせられる。

創られたイメージと少しでも違えば、私は必要ない人間なんだ。

相手の新しいいい部分をみつけたとしても、それは必要ないと排除される。

誰も私をみていない。

誰も相手をみていない。

人と人との繋がりのない友なんて愛情、いらないと思った。


男は私を簡単に捨てる。

都合が悪いと簡単に捨てる。

彼女に相手にされない時の暇つぶしの女。

男は私に秘密を強要する。

自分の女よりももっと大きな快感を要求する。

ドキドキしてハラハラする空間を求める。

それが出来ないと終わり。

お前もういらない。そういわれることにも慣れた。

もういいよ、面倒くさいから。


私はずっと拾われるのを待ってる。

街を歩く物売りみたいに、「私は要りませんか~」と彷徨い歩く。

消費期限付きの愛。

私自身は腐らないと思っているのだけれど・・・。

変わらないと思っているのだけれど・・・。

拾ってくれた人が飽きるまでの愛を私は待っている。


だけど、拾う方は愛なんて望んでいない。

だって、私が売りにしてきたのは愛じゃない。

同情だ。

皆私を可哀相な子だと言う。

一人でいる私が可哀想だと近づいてくる。


私は愛されているって勘違い。

「ねぇ、私の事愛してる?」

そんな問いかけに誰も応えてはくれない。


私は誰も愛していない。

愛ってなんなのか解からない。

だから、誰も私を愛してはくれないけれど・・・。

誰でもいい、私を目一杯愛してほしい。

愛し方を教えてほしい。


私はずっとそうやって生きてきた。

そんな私は、彼を愛しているんだって言うんだ。

彼に愛よりも他の望みを抱えて。

見返りを期待して。

ただ、望みを叶えられなくても期待に応えてくれなくても、好きだから。

私はそれを愛と呼ぶ。

私は、今まで付き合ってきた人達を否定しているから、そんな新しい感情を愛と呼ぶ。

まだ知らないそれを愛と呼ぶ。

14.企み最終幕

大嫌いな女から解放され、私は毎日座りなれた男友達の車の後部座席で気を緩めた。

フワフワして気持ちがいい椅子。

ふっとため息をつくと、全身の力が一緒に私の体から出ていったかのように感じた。

ゆっくり、私は横になった。


「せのり?」

「ん?」

「せのり?」

「ん?」

返事するのが面倒だ。

家に着くまで放っておいてほしい。

「何であんな奴とカラオケなんか行ったん?」

「ノリ」

「あんたは好きなものは好き、嫌いなものは嫌いってはっきりさせる子やと思ってたけど」

「究極の選択なんじゃないの」

「どちらも嫌やった。そういうこと?」

「なんだっていいやん」

うるさい。

今夜は疲れた。

聞きたい事があるなら、はっきり言えばいい。


静かだった。

この車には三人も人が乗っているというのに、静かだった。

音を探れば、エンジン音や体が椅子に擦れる音や息遣いの合間に、デジタル時計が変わる音まで聞き取れそうだった。


「着いたけど・・・」

男友達はエンジンを切った後、そっと私に言った。

「ありがとう」

ゆっくり体を起こし、戸を開けようと手を伸ばした。

「帰さへん・・・」

親友の怒りにも似た低い声に、驚きはしなかったが体がビクッとすくんだ。

そっと親友の方を見ると、前を向いたまま煙草に火をつけていた。

顔は見えない。

怒っているのか解からないが、話がある、しかも長い話だと親友の背中が呟いていた。

仕方なく、私はゆっくり腰を下ろした。


「何?」

「あんた、ウチに隠し事してるよね」

「別に、言わなきゃいけない事は全ていってある」

「私は、聞かなきゃいけない事を聞いてない」

「だから、何?」

「あんた、前の男と別れてから1年、ずっと好きな人はできひかったみたいやけど、好きな人おるんじゃないの?」

「いるけど、それは言わなきゃいけない事?」

「いけない事ではないけど、聞かされない方の気持ちを考えれば判る事でしょ」

「聞きたいっていうだけで、私はここまで追い込まれなきゃいけないわけ?」

「・・・・・・」

「帰りたいんやけど」

「・・・・・・」

親友がだまった。

いや、私が黙らせた。

よく、解かってる。

私だって、こんな事されなければ1番に彼女へ報告したと思うから。

親友が言っていることは正しい。

だけど、私は自分を正当化した。

親友は口喧嘩が苦手だ。

彼女は自分を正当化させたりしないから。

気持ちの熱い人間だ。

聞きたい。それ以上でもそれ以下でもない。

私はこれ以上彼女を傷つけたくはなかった。

私には、彼女のように人の心を熱くさせるような熱い気持ちがない。

冷たく、酷い言葉で相手を傷つけることしかできないから。


「もういいんじゃない。お前もよく解かってるやん。帰してあげたら?」

男友達がこの場をおさめようとそう言った。

そんな言葉に親友は背中を押されたようだ。

「あんたは黙ってて。もう今は二人の問題なんやから」

「それやねんたら、二人でやればえぇやん。俺が此処にいる意味がない」

二人の会話は、解かるようで理解できなかった。

三人の問題のようにも聞こえるし、男友達がいるからこその話し合いにも聞こえる。

ただ、私が誰が好きなのかという詰まらない議論なのに。


「はっきり言う。せのり、あなたは誰が好きなの?」

「言わない」

「もうせのりちゃん言った方がいいよ」

「言ってどうなるの?その男が私の事好きになるわけ?」

「いや、付き合う事はできひんけど・・・」

男友達がフライングした。

それに気付いたのは私だけなのだろうか。

二人は私に無理やり告白させたがっている。

二人で仕組んだと思われる告白ゲームは、グダグダだ。

何故、私が好きでもない男に告白せねばならない。

しかも、告白される側が仕組んだこの場で。

フラれる人間を見て笑いたいか?

そんなに女をフリたいか?

フル為の言葉も考えてんだろう?

ムカつく。

絶対に言うもんか。

「なんで、そこまで意固地になるん?誰が好きか言えばいいだけやん」

「それじゃぁ、あんた達も言えばいいじゃん」

「私は今いないもん」

「そいつの事気にいってたんじゃないの?指輪貰って嬉しそうにして、ベタベタいっつもくっついて」

「それは・・・あんたの為やん」

「それが私に何の為になった?」

「それは・・・」

「此処までさすって事は、気付いてるって事やろ。お二人さん」

「・・・・・・」

「気付いてるならそれでいいんじゃない?当たってんじゃないの?」

「だから、言ってほしいって言ってるやん」

「解かった。言うわ。ただ、あんた等のしてきた事がほんまにウチの為になったか、よく考えや」

「・・・・・・」

「ウチは、あんた等が思ってるように、そいつの事が好きやった。あんた等が、ウチに対して嫉妬させようとしてたんも気付いてた。だけど、もう好きじゃない。人を好きになってこんなに後悔したんは、初めてや。親友にも好きになった相手からもこんなに馬鹿にされて・・・。おもしろかったか?楽しかったか?あんたらには、これから好きになった人が出来ても二度と言わないから。・・・・・車の鍵、開けてくれる?」


二人は黙ったまま、ずっと前を向いていた。

ガチャっと鍵の開く音が聞こえ、私は何も言わず車の戸を開けた。

車から降り、一度深く息を吸った。

固まったままの二人を確認してから、黙って戸を閉めた。

部屋に入り、電気をつけ、鞄をおろし、カーテンを少し明けて外を見た。

車はまだ止まっている。

二人を傷つけた事は自分でもよく解かっていた。

流れた涙の理由が、複雑すぎる心でよく解からない。

私が痛めた心よりも、軽い傷であればと願った。


しばらく誰にも会いたくない。

誰とも話したくない。

言葉というものは簡単に人を傷つけてしまう。

私は凶器だ。

心無い凶器。

私の傷なんて浅い。

親友の熱い気持ちが伝わってくる。

そう、親友が傷つけたんじゃない。

親友の言葉を受けて、自分で傷つけた。

好きにならない。

そんな私の心に進入してきた人達を排除させた傷跡だ。

好きになることは悪い事じゃない。

親友が体を張って教えてくれた事だ。

だけど、そんなに簡単なことじゃない。

私は愛を知らない

ただのコンプレックス。

親からも愛されなかったと思っているだけ。

好きな人からも愛されなかったと思っているだけ。

友達からも信頼されなかったと思っているだけ。

私が不登校になり、いい学校へ行けなかったから母は出て行ったのだと思っているだけ。

都合が悪くなって、利用できなくなったから男は私を捨てたんだと思っているだけ。

仲間という枠に入りきれずに、友に裏切られたんだと思っているだけ。

今の周りにいる人間は、まだ、私に利用価値があると思っているだけ。

人に心を開く事が私は何より怖い。

心閉じた、私の言葉は誰かを傷つける。

傷つける事でしか自分を守れない。

親友だと思いながらも、彼女に告げた言葉は友達じゃないという言葉だった。

心は伝わらない。

伝えることはできない。

私は親友を深く傷つけた。


こんな私は誰も愛せない。



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13.企む意地の張り合い

いつもの様に、バーの戸を開ける。

そこには、男友達が居てバーテンダーの彼が居て、親友がカウンターに座っている。

一つだけ違ったのは、親友の隣に私が大嫌いな女性がそこに居た事だ。


「久しぶり」

大嫌いな女から声を掛けられた。

私は、不自然な足音を立てながらもその足音に気付かれないよう細心の注意を払いカウンターへ向かった。

目線を何処に置いていいのか判らない。

床を見ては何だか違うような気がして横を向いてみたり、横を向いては何だか違う気がして親友の顔を見てみたり。

こんな挙動不審な私に気付かない女も女だ。

細心の注意はするものの、彼女と一緒に飲むという事には抵抗を感じる。

私は、女と親友が並んで飲む親友の隣の席から1つ席を開け、座った。

「久しぶり、もう最後に会った日も覚えてないわ」

嫌味たっぷりの言葉もこの女には通じない。

だからこそ、私は余計にムカつく。

女が何とも思わない分、仲のいいフリをさせられてしまう。

彼女には一度殴られた事があった。

だからだろうか、私はこの女に対してシカトという選択をする勇気がない。

彼女以外の人間に対し、私はこいつが嫌いなんだというアピールをするくらいで精一杯だ。

そしたら、周りは気を使って助けてくれるから。

「本当に。私も思い出せへんわ。携帯変わったみたいで繋がらへんし、また教えてね」

思い出せない?

思い出したら都合が悪いの間違いじゃないのか?


元々、彼女とは仲良く遊ぶ仲間だった。

仲間だと思っていたのは私だけなのかもしれない。

私は彼女に利用された。

2度の裏切りを許した仲でもある。

ただ、3度繰り返された裏切りに、4度目はなかった。

全てにお金が絡んでいる。

3度目の裏切りを受けた最後の日を思い出せたのなら、5万円は返してくれるのかしら?

いや、総額20万円近くになるお金も返してもらえる?

だが、私は返してもらわなくてもいいと思っている。

その金が、この女を嫌い遠ざける手切れ金になるのなら。

謝って欲しくなんてない。


「あんた誘ったけど仕事っぽかったから、暇してたこいつから電話あって飲んでてん・・・」

語尾を濁らせる親友は、女と私どちらにも気を遣っているようだ。

少し申し訳ない気がして、とりあえず、とりあえず普通に会話を試みようとした。

「うん、今終わったところ。どうせ毎日此処で顔合わしてるんやし」

「ここ、いい店やね。私も通おうかな」

やめてくれ。

それだけは、絶対やめてくれ。

「いい店やろ。でも、あんた仕事終わって此処に来て最終電車まで1時間とないやん」

ナイス!

親友ナイスフォロー。

「そうやな、田舎ってほんま電車終わるの早いよな」


当たり障りのない会話が続き、盛り上がりにも欠け、その所為だろうか二人の酒のペースは増していった。

そんな中、仕事を早めに切り上げた男友達が私服に着替え、私たちに割ってはいってきた。

不自然に空く空席に一瞬戸惑いを見せたような顔をし、親友の顔を見、私の顔を見、何をどう考え理解したのかしらないが、その空席に席を置いた。

同時に私は席を立ち、1つ席を空け座った。

「・・・・俺?」

一瞬の沈黙の後、親友は慌てて答える。

「そう!せのりはあんたが嫌いなの!」

「うそ、いつから!?」

「昨日あんたがパーマに失敗した時から」

「マジで!?これ、似合ってない?な?」

ぷっ、笑いが堪えられない。

慌てふためく男友達を見て、皆が爆笑した。

女もその場のノリで笑える程の失敗パーマである。

テンション下がるわー、と落ち込みをアピールする男友達。

そんな男友達に親友は、まだ冗談を続けるつもりらしい。

「せのりがあんたの事嫌いでも、私がいるやん」

「ほんまに、俺の事好き?」

「めっちゃ好きやで」

「じゃぁ、お姉さん今日これから、どこか楽しいところに行こうよ」

「楽しませてくれるの?」

「何をして欲しい?」

下ネタかよ・・・。

烏龍茶でこのミニコントに割ってはいる理性OFFスイッチは持ち合わせてません。

「なーんか、お二人さん怪しくない?」

女がミニコントに参加してきた。

と、言ってもこの状況で冗談か本心かなんて判るはずもなく、半ば真剣に聞いているのだろう。

おもしろい、この際この二人を苛めてやろうじゃないか。

「怪しいもなにも、毎日彼に家まで車で送ってもらってるんやけど、私が降りた後この二人、いつも楽しい所にお出かけしてるもんな?!」

「それはないよ、ちゃんと直ぐ送り届けてるよ」

私の冗談に酒の入っていない男友達がマジで答えてきた。

そんな焦る男友達をよそに親友は止まらない。

「あ、バレてた!?年下って本当すごい。毎日、毎日・・・思い出しただけで・・・あぁん」

「ちょっと二人そんなことになってたん?そんなおもしろい話隠してるなんてズルイわ」

「ないない。おぃ、何か皆可笑しいし」

「キャー、この子照れてるよ」

女は私たちの冗談を8割がた信じだしている。

男と女がどうなったなんて話は女の大好物なのかもしれない。

それが嘘でも本当でもどうでもいい。

もっと刺激的に・・・もっと刺激的に・・・。


嘘だらけの会話に興奮気味の女は、もう我慢の限界らしい。

その毎夜繰り返される現場に立会いたくなったのだろう。

二人がこの店を出てゆく様を見ることで、女はきっと今宵のエクスタシーを体感するのだろう。

女の言動はその事を裏付ける。

「私、何だかお邪魔みたい。そろそろおいとまして二人を見送ろうかな」

そう言うとすっと席を立ち、二人の後ろを通りすぎ空席には目もくれず私の席に回りこみ私の隣の席へと移ってきた。

「せのりちゃん見て、二人お似合いのカップル」

近い、女が近い。

私は二人をイジめる事に専念するべきか?ギブアップして席を立ち女から身を遠ざけるべきか?

「本当に~嬉しい」

親友が男の腕に手を回し、それでも続ける意志を見せたので私も続ける覚悟を決めた。

「もうこんな時間。早くしないとお楽しみの場所、他のカップルに取られちゃうよ」

そんな言葉に親友は何処まで本気なのか席を立ち始め、男を連れ出しに掛かった。

「そろそろ、行こう。ね。お勘定お願いしま~す」

女はそんな二人に満足そうだ。

「せのりちゃん、私たちも帰ろう」

「うん・・・でも、電車ないよ・・・」

「あ、俺、送ってくから」

ノリに乗れない男の逃げ場はそこだけだった。

そんな逃げ場も崩しに掛かる、女と親友。

「そんな~お邪魔ですから~」

「二人っきりがいい~」

「とりあえず・・・・出よう」


解かる。お酒の入っていない男友達と私にとっては、この状況は厳しい。

だけど、私は・・・おもしろいよ。

散々、あんた達二人の変な企みに苦しめられたのだから。

ま、今も親友の企みの罠に自らかかりにいっているのかもしれないのだけれど。


車に乗り込む4人。

まだまだミニコントは続く。

既にミニではなくなっているような気もするがどうだっていい。

後はさっさと帰って寝るだけさ。


女を送るため、女が住む家の近くにあるカラオケ店へ向かう。

女が家を教えたがらない理由が私にはよく解からないが、とりあえずカラオケ店らしい。

カラオケ店の駐車場に車を一時駐車した。

女は最後まで二人を見送れない事を少し悔やんでいるようだ。

どれだけ待ってもそんな現場に立ちえることなんてないのに。

「この後の事、今度聞かせてね」

しつこい。

さっさと帰れよ。

多分、女を除く車内全員がそう思っていたに違いない。

女は車の戸を開け、やっと変える決意をしたらしい。


油断した私が馬鹿だったのか?

女に手を引かれ、私は車から下ろされカラオケ店へと拉致られた。

「何?どういうつもり?」

「あの二人の邪魔しちゃ悪いでしょ」

「はぁ?冗談でしょ」

「せのりちゃんは、いつも気がきかないんやから!」

振り返ると車はまだそこにあった。

当たり前なのだけど。

「私、帰るから」

「そう言わずに1時間カラオケつきあってよ」

この女、何かんがえてんだか。

強く手を握られたまま、私はどうする事もできなかった。


大嫌いな女と二人、密室。

女は最高のおかずを胸に、気持ちよさそうに歌ってる。

「ちょっとトイレ」

私は、席をたった。

携帯を見ると不在着信が数分前まで何件も続いていた。

親友からだ。

救いを求めるかのように、私は直ぐにかけなおす。


コール音も鳴らず親友は携帯から声を出した。

「あんた、今どこ?」

「カラオケ・・・」

「あいつと?」

「そう!これ、どうなってんの?最悪なんやけど」

「ごめん、こんな事になるとは・・・」

「やりすぎ・・・たよな」

「あんなにあんたも乗ってくるとは思わんかったし」

「どういう意味?」

「ん、まぁ、とにかく迎えに行くから、何とか誤魔化して出ておいで」

「わかった」

やっぱり、親友は私に嫉妬なんてやかせようと企んでいたらしい。

お互いの意地の張り合いがこうなってしまったんだろうけど。

それにしても、最悪だ。

大嫌いな奴と密室なんて・・・。


用ができたからなんて詰まらない嘘を女に吐き捨て、返事も聞かずにカラオケ店を出た。

調度、男友達の車も到着し、私は直ぐに駆け寄り飛び乗った。

「地獄かと思った・・・」

そう言ったのは本心だったが、私はこの後本当の地獄のような世界に紛れ込む。

私が、女とカラオケ店にいる間、二人がどんな話をしてたかなんて、全く考えもしていなかった。

二人の企む惨い最終幕が開く音に、私は女からの解放の安心感で気付く事ができなかった。



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12.彼の誕生日を祝いたい

彼と出会ってから、初めての彼の誕生日を迎えたこの日。

私には何も関係のないこの日を私は何故かワクワクして向かえた。


「おめでとう」の5文字をメールする事に何故だか躊躇う。

誕生日の0時0分という奇跡に堪らなく感動する乙女チックな私は、ため息と共に過ぎて行く時をカウントした。

1分、2分、3分、彼の元には何通のメールが届いたんだろう。

1番になんてそんなおこがましいこと出来ない。

私は一体どんなタイミングで、このメールを送信したらいいのだろう。


結局メールを送る事ができず、携帯のOFFボタンを連打した。


私はバーの前に居る。

何故来てしまったんだろう。

誕生日だから働いていないかもしれないのに。

店の戸を開けられず、隣のコンビニを出たり入ったり。

「今まで友達と遊んでて」こんなわざとらしい言葉を吐いてみるか?

「誕生日おめでとう」わざわざ来ちゃった的行動をとるか?

くー、こんなシュミレーションしてたって、お馬鹿な私にいい結果なんて導きだせない。

「ね、番号教えて」今までこの一言で、落とせる男は落とせたもの。

落ちない男は何を言っても駄目。

そんなもの。


店の戸を開け、そっと中を覗くととても静かだった。

店にはお客さんはおらず、彼だけが店内にいた。

「お、こんな時間にどうした?」

「あ、うん、友達と遊んでて」

出た!私はそれで行くのか?

なら、とりあえず、何処で遊んでたとか誰と遊んでたとか嘘固めたいと墓穴ほるぞ。

なーんも考えてないんだぞ、馬鹿、私の馬鹿。

「そう、店、もう客おらんからもう直ぐ終わるねん。送ってこうか?」

「う、うぅん、いぃ。1人で帰れるから」

だめだ、私、舞い上がって少女みたいな事いっちゃってるわ。

らしくもない。

もう降参。

って、私、何狙いにきてんだか。

おめでとう、そう言ってさっさと帰ろう。

「誕生日だね、おめでとう」

「お、ありがとう。誕生日に仕事って寂しいやろ」

「ほんまやね」

「わざわざ、来てくれたん?」

うわー、友達と遊んでてって全然意味ねぇじゃん。

私の嘘、聞いてなかった?

「うーん、どうだろう」

だよね、だよね、答えられるわけないもん。


「ケーキ食べる?」

店の奥から店長さんが、彼へのバースデーケーキを切り分けて呼んでくれた。

「ありがとうございます」

「これ、うまいぞ。俺のケーキやから」

「うん、おいしい」

「じゃ、ほんまに送ってかんでえぇねんな。またな」

え、え、え!?

もう帰るんだ・・・。


バーに1人。

目の前にはケーキとオレンジジュース。

そして、バーの店長さん。

何?この状況。

オレンジジュースを飲んだら、少し硬く感じた。

ケーキがやたら大きく感じた。

早く食べて帰ろう。


「ごちそうさまでした」

店を出たらとても静かだった。

上を向いて歩こうって歌が頭の中に流れてきた。

私、いい選曲するわ。

今、すごいピッタリの歌だ。

星が綺麗。


「おめでとう」


あーーーーーーーーーーーーーー。

頭の中でずっと叫び続けた。

叫んでないと、私変なこと考えつくもん。

寂しいとか、切ないとか、呟いたら終わり。

私は絶対に泣く。


「あれ、まだ居たの?」

戸締りを終えて出てきた店長さんに声を掛けられ我に帰る。

そしてタクシーを拾い、家に帰った。


ダサイ。

私、ダサイ。

何、想いふけってたんだろう。

おめでとうも言えたし、満足・・・満足・・・。

うん、満足・・・・。



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11.友達という空気

< 今日はありがとう。楽しかった。あいつから勝手にメアド聞きだしてしまいました。ごめんね。 >


海へ行ってきて家に帰ってしばらくした後に、知らないメアドからメールが送られてきた。

今考えると誰のものかなんて直ぐに判りそうなものだけど、何度も何度も読み返しそれでも解からないフリをしたのは何故だったんだろう。

返事もせず、受信メールを開いたまま携帯を閉じた。

そして、そっと携帯を机の上に置いた。


何度も何度も読み返したのは、メール本文だけじゃなかった。

登録されていない差出人欄はメアドをむき出しに、自分が誰なのかを訴えていた。

あなたは誰?

バーテンダーの彼?

それとも、プーさん?

それとも・・・私はこんな女性の名前は知らないよ。


返事・・・しなきゃ・・・。


その翌日も私は、義務付けられているかのようにバーへ向かった。

店には親友もいて、前日の海の話で盛り上がっていた。


「楽しかったよな」

「二十歳越えてからあんな無茶したん始めてかも」

「俺は疲れたけど」

「せのりは、ずっと寝てたな。もったいない」

「海、綺麗やったで」

「ごめんなさい」

「ほんまによ、俺、足痛いわ~」

「重かった?」

「あぁー重かった!」

「そんなに重くは・・・」

「嘘うそ!もっといっぱい食べて太った方がえぇかもな」

「せのりは昔から、1回寝たら起きひんもんな」

「ま、まぁ・・・」

「こいつ、ずっと寝てて学校こうへんかったんやから」

「今度はちゃんと起きとく」

「うん、またどっか行こうな」


友達ってこんな風にして作っていくのかな。

とても新鮮だった。

気付いたらそこに居たみたいな、そんな臭い空気が漂ってる。

逆ナンして、恋愛ゲーム失敗したような友達ばかりだった。

こんな何でもない友達って良いなって思った。

だけど、既に私はこの素敵なお友達の空間には似合わない、恋愛の敗北者だ。

友達・・・私は、男を何故そんな風にみれなかったのかな。

今からでも間に合うだろうか。

好きなんて気持ち捨て去って、一生友達で居られる術を私に与えて欲しい。

ずっと一緒に居られるなら、私はそんな選択をする。


「ねぇ、プーさん好きなん?」

親友がバーテンダーの彼にそう聞いた。

メアドの事だと直ぐに気がついた。

プーさん・・・それはフリ?

それだけにして、お願いだから。

それ以上は絶対に、聞かないで欲しい。

「おぅ、プーはかわええやろ」

「イメージないよなぁ」

「なにを!プー丸出しやんけ」

「どこがよ!全く抱きしめたくないしな」

「俺、プーやったら全部もってるし」

「キモッ」

「キモイ言うな」

「でもさ、せのりが誘わへんかったら、こんなに仲良くなってなかったよな」

「そやな、俺、一切彼女以外の女性と遊ばへん主義やし」

うわー、親友が聞かなくても自ら彼女の話始めちゃったよ。

聞きたくないな。

帰りたいな。

話の流れ、変えたい。

「え、浮気とかせぇへんの?」

も・・・盛り上がってきてる・・・最悪だ。

「せぇへんよ」

「嘘、うそ~」

「俺、結構一途やねんから。な?」

「先輩は彼女一筋です」

「ふ~ん、見えへんよな。な?」

「え?!あぁ、浮気ね。多分、本気になっちゃうんじゃない?」

「そうそう、遊ばへんなんて、自己防衛やわ」

「かもな!でも傷つけたくないから」

「はぃはぃ、優しい方ですこと」


人ってすごいな。

どんな能力でも発揮しちゃう。

私、この時、耳の戦闘力かなり高かったはず。

耳にすごいフィルター張ってた。

防御率100%。

叩かれたってびくともしなかったよ。

全く聞こえない。

何も聞こえない。

どんな話してるかなんて、全く聞こえなかった。

無口な彼に戻ればいいのに。

私だけに話しかけてくれる、そんな彼に戻ればいいのに。

でも、相変わらず、あまり笑わないんだね・・・。


この日から、私は電車のある時間に変えるようにしていた。

誰かに送られる。

その誰かを何だか選べないでいたから。

きっと成り行きで男友達が送ってくれるのだろうけれど、何だか嫌だったんだ。


賑わう店内に少し後ろ髪引かれながら、家へ帰った。


この日を境に、彼からよくメールが来るようになった。

電話も定期的にくる。

何でもない話。

それに私が答えるだけの毎日。

私じゃなくてもいいような、そんな手ごたえのない言葉達。

大切にしまっておきたい筈の言葉達は、ポケットの穴から零れ落ちていた。

彼と、どんな話したっけな・・・思い出せない・・・。


「バーテンダーくん、せのりの事気にいってるよね。私、アレっきりメールないもん」

親友はそう言うけれど、勘違いだと全面的に否定した。

「でも、あいつとせのりじゃ合わんよな。あいつには手に負えない」

私はどれだけ問題児なんだよ・・・。

でも、親友の見解は当たる。

私の事、私以上にしってるもの。

「友達になったのも不思議なくらいやもん」

そうなのかもしれないね。


よく考えてみたら、私は何でバーテンダーの彼が好きなのかよく解からない。

やっぱり、顔だけだったのかな。

親友が言うように、私が本当に好きになるような男のタイプではないのかな。

そうだったのなら、きっといつか恋心も冷め切って、いいお友達になれるかもしれない。

きっと、そうだよ。

そうに違いない。

大切にしよう。

友達という関係を。



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