彼女じゃない恋愛*愛した男には彼女がいた -65ページ目

10.海へ行こう

朝まで遊んで、少しの睡眠時間で仕事に向かい、家に帰ってゆっくり眠りたい。

・・・筈なのだけど、私はバーへ向かう。

店には親友も居た。

身をすり減らしてでも来る此処には、一体何があるというんだろう。

手放したくない何かがそこにある。


今日もまた親友は「カラオケへ行こう」と騒いでいた。

何処から湧き上がった話題かはしらないが、彼女にミスチルの話は禁句だ。

そんな話題、彼女がカラオケに行きたがるのも無理はない。

男友達は昨日の今日でマジかよ!?という顔をしている。

自業自得、お前が悪いんだ。

自分で処理しなさいよ。

こんないい加減な男に任せた私も馬鹿だけど。

「んま・・・少しだけなら」

行くのかよ!!

私はいつものように、最後まで返事はしなかった。

成り行き。

それが一番いい。


親友は上機嫌だ。

早くもミスチルを歌い続けてる。

私はミスチルを1度も聞いたことはない。

だけど、ミスチルの曲は全て知っている。

嫌いではない。

頷ける歌詞を好きだとも思う。

彼女が歌うからだろうか。

とても身に染みる。

何処の誰だか解からない有名人が歌うよりも、ずっと心に染み渡る。


彼女が歌うのをやめ私に聞いていた。

「せのりも行くやろ」

「うん」

私は普通にそう答えた。

何の嫌味でもない。

今日は多分、彼女も純粋に誘ったのだろうと感じたからそう答えた。

「あなたも行くよね」

私はバーテンダーの彼を誘った。

「俺?」

彼はとてもビックリしていた。

いつも私たちはこの店で騒ぎ、消えていく存在だっただから仕方ないけれど。

親友も乗り気だった。

「はい、決定!4人でミスチルオールナイト」

「ミスチルオンリーかよ」

「当然」


楽しい。

そう思えたのは久しぶりだった。

店を閉店させてから、バーテンダーの彼が家に車を置きに行き、男友達の車1台でカラオケへ行く。

何故かその日、親友は私の隣の後部座席に席をとった。

戻った。

おかしな表現だけど、そう思ったんだ。


親友は一目散にカラオケ店内へ駆け出す。

その後を負うように、男友達が歩を進める。

私はいつものように二人の背中を眺めながらゆっくり歩くのだ。

バーテンダーの彼はそんな三人をやっぱり後ろから眺めているのだろう。


ミスチルの歌が続く。

昨日とは全く違う。

同じ場所なのに、全く違う。

相手にされなくなった男友達が私に絡んでくるのがウザイくらいで、私は「いつも」だなと思った。

横に座るバーテンダーの彼が「辛くないか?」って聞いてくるけれど、「全然」そう心の底から言える。


この日も朝まで歌い続け、車に乗り込み「さ、誰から送ってこうかな」と男友達が言う。

「ねぇ、このまま帰るの勿体なくない?」

親友はめちゃくちゃ楽しかったのか、まだ遊び足らないようすだった。

私も実はもっと一緒にいたいという気分だったが、私はいつものように返事はしない。

「明日の予定は?私は休み。せのりも休みやんね」

「俺らも店休みやけど、本気?」

「うん、遊園地行こう」

「おし、行くか!」

親友と男友達のやり取りが何だかおかしかった。

ノリノリの彼女と、話を合わせているだけの男友達。

さて、これからどうなるんだろう。

クスクス心の中で笑いながら黙って見ていた。

冷静だったのは、バーテンダーの彼。

「行くなら行くで別にいいけど、とりあえずシャワー浴びたいから1回家に帰らへんか?」

その一言で、一旦家に帰ってから再度集まる事になった。


家まで送ってもらい、シャワーを浴びた。

内心ワクワクしていた。

何も考えずノリだけで事が進んで、流れに逆らわず楽しい事だけに目を向けている今って、すごい意味のない事だけど、楽しい。


しばらくして男友達から電話がなった。

「迎えにきてくれたん?」

「いや、本気で行くんかなと思ってさ・・・」

「そう思うなら掛ける相手間違えてないか?」

「あいつに掛けたら、話進んでいく気がしてさ」

「行きたくないの?」

「そういうわけじゃないけど」

「どっちか自分で決めなよ。あんたが行かなくても行く奴は行くんじゃない?」

「わかった、今から迎えに行くよ」

やっぱり男友達は行きたくなかったんだな。

ま、誰だってあのタイミングで遊園地へ行こう何て思わないわな。

でも、行きたくなけりゃ行きたくないと言えばいいのに。


行きたくない奴一人含め、4人はとりあえずファミレスで朝ごはんを食べる事にした。

少し眠気が襲い掛かっている。

でもきっと楽しいはずだ。

遊園地なんて何年ぶりだろう。

多分皆も眠さと闘ってるんだろう。

少しだらけ気味の4人は、それでも楽しいという雰囲気を作り出そうとしてた。

何の為だかわからない我慢だけれど。


そんな雰囲気を壊したのは男友達だ。

「なぁ、これから何処に行くん?」

「遊園地でしょ?」

「俺の車でいくんやんな?」

「車、使えへんの?」

「いや、俺、眠くて事故りそう」

「じゃ、俺が運転するわ」

「いや、いいっすよ」

「怖いな・・・」

「どこまで行くつもりなん?」

「だから遊園地でしょ?」

「何処の遊園地行くん?」

「何処でもいいんじゃない?」

「運転するの俺やで、先に決めてしまおうよ」

「じゃ、長スパとか」

「開いてるん?」

「知らない、開いてんじゃない?」

「行って、閉まってたら俺嫌や」

「開いてるって~」

「そう?」

何とも歯切れの悪い言葉を吐き続ける男友達は、眠いから顔洗ってくると席を立って行った。

「解散するか?」

バーテンダーの彼が言い出し、不満そうに親友が反対しだした。

「あいつ、行きたがってないやん。あぁいう奴が1人おるだけで気分が悪い」

「確かにそうやけど、行ったら行ったで楽しいって」

「じゃぁ、こんなところでダラダラしてんとさっさと行こう」


何だかつまらなくなってきた。


渋々立ち上がった4人。

車の鍵が開く音も鈍く感じた。

さっきまで横に座っていた親友は、何を思ってか男友達の助手席に座る。

でも、この日少しだけ嬉しかった。

隣に彼が座ること、少しだけ嬉しかった。


晴れた空が気持ちよかった。

窓から吹き付ける風も気持ちがいい。


小さな声でバーテンダーの彼が話しかけてくる。

「お前、辛くないんか?」

「また、その話?」

「俺、前に座ればよかったな」

「なんで?私の隣は嫌?」

「そういうわけじゃないけど」

「私は全然平気だよ」

「おぃ、そんな大きな声で話すなって」

「大丈夫だよ」

「やせ我慢」

「知ってる?この車大きいでしょ。だから前の声と後ろの声は、よほど大きな声じゃないと聞こえない」

「そうなんか?」

「うん、いつもそう。二人の話は聞こえないし、私の声は届かない」

「・・・・・」

「何、黙って?!だから普通に話してても大丈夫だよ」

「・・・・・」

「もう!それに、私が好きな人は違う人だし、心配しなくても大丈夫」

「違う人?」

「そう、あの時嘘ついたの」

「それならいいけどさ」

「あの二人に思う事は別にある」

「別に?」

「そう。好きだから辛いわけじゃない」

「だったら、あいつらの事しっかり見ろよ、ずっと横向いてんと」

「あんまり、いじめないで・・・」

「ごめん」


「なぁ!なぁー!」

前の二人が大声で話しかける。

「遊園地やめて、海へ行こう。天気いいし」

「任せる!」


「海やって」

「海ねぇ~、青春っぽいな」

「ぷっ、オヤジ臭くない?」

「泣きそうになってるお子ちゃまに言われたくない」

「あぁ、何か眠い」

「俺の膝使う」

「なんかエロイ」


私は彼の膝で眠った。

ずっと眠り続けた・・・フリをした。

海はみていない。

ずっと彼の膝にいた。

だから彼も海をみていない。

ずっとずっと、彼は私の頭を撫でてくれていた。

日が暮れだした帰り道。

私は少しだけ眠った。

彼の手がとても気持ちがよかったから。


何で彼は私にこんなに優しいんだろう。

彼女がいるのに・・・。



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9.企みの影

指輪を胸元に光らせた親友とバーへ向かう。

その首は締め付けられたりはしないのかい?

私は絶対に好きでもない男から貰った物なんて首にはつけられない。


店の戸を開けると、男友達の友達もいて三人で飲むことになった。

そして、早くも仕事を終わらせた男友達が着替えを済ませ親友の隣に席着く。

「これから四人でカラオケでも行こうさ」

親友が言い出した言葉は男たちを沸かせた。

返事をしていない私は後に続くだけだ。

来て早々、私たちは店を出る。


当たり前のように親友は、男友達の助手席の戸を開ける。

私はどうしようか・・・。

迷いながらも、男友達の友達の車の助手席の戸を開けた。

「せのりちゃん、向こうのらへんの?」

「こっちに乗ったらあかん?」

「えぇよ。行き先は決まってるしな」


結局どちらでもよかった。

この友達もナンダカンダでうるさいし・・・。


「せのりちゃん、しっかりしなあの子にあいつ取られるで」

「だーかーらー!勘違いやから!」

「好きなくせに」

「って、それは誰から聞いたの?」

「だって、あいつ言うとったで」

「はぁ?あいつが?」

「うん、せのりちゃん、俺の事好きかもしれん、どうしよ~って」

「自分で?勝手に?思い込んでるわけ?」

「あはは、あいつヒドイ言われようやな」

「そうやろ!だって」

「なんか、あいつに好きって言うたらしいやん」

「はぁ?いつ?」

「いつかはしらんけどよ~、言うたやろ?」

いつだ、思い出せ・・・何の話をいってんだか・・・。

全く思い出せない。

ってか、考える必要なんてない。

多分あれだろ、人として好きだって私は男友達に言ったんだろう。

「その話、知らんけどさ、私はあんたの事も好きだよ」

「うそ!ちょっとやめてよ」

「はぃはぃ、焦らない」

「焦るっちゅうねん」

「私は、あんたの優しさが好きだよ」

「なんや、人間としてか」

「当たり前!」

「ってことは、完全にあいつの勘違いってことか?」

「そう!解かった?」

「ふ~ん、でも俺、あいつとせのりちゃんが付き合ったらおもしろいと思うけど」

「人を使って楽しまないで」

「でも、もう少し押せばあいつ落ちる気がするけどな」

「落ちても、こっちが困るから、もうやめてね」

「了ー解。でもさ、あいつ皆に言うとるで」

「うそ・・・何か最低な男に思えてきた」

「俺から謝るから、俺の親友をそんな風に言わんといてくれよー」

「ごめんごめん」


多分、親友は男友達から聞いたのだろう。

二人して何を企んでいるんだか・・・。

何か腹が立ってきた。

男友達はその気もないのに、私にどうしてほしいんだか。

何故やつらは私に吐かせたがっている?


4人のカラオケは朝まで続いた。

親友と男友達は、べったりだった。

恋人同士みたいだった。

楽しいか?

そんな演技みたいなことをして。

聞きだしたい事があるならさっさと言ってしまえばいいのに。


「あいつら、キモイな」

帰りの車内で男友達の友達がボソっと言った。

「せのりちゃんの気持ちも解かったからはっきり言うけど、あいつ好きな子おるしな」

「知ってる」

「そやのに、あいつ何やっとんねん!」

「好きとか関係なく、見てたら腹立つやろ」

「解かるわ、せのりちゃん」

「だろ!」

「もうあいつにはっきり言うたれよ」

「どうやって」

「あんたなんか好きじゃないのよ、ば~かって」

「親友傷つけてもいいの?」

「それぐらいしたってもえぇやろ!」

「よし、わかった」

「俺、あんなん見せられたらあいつの好きな奴にチクリそうやわ」

「あ、それだけはやめてあげてね」

「優しいなぁ~せのりちゃんわ」

「あほ!お前もキモイわ」


なんだか、味方が出来たみたいで嬉しかった。

もう直ぐ誤解もとけるかもしれない。

さっさと、あんな最低な男からは手を引きたい。

ムカつく、ムカつく、ムカつく。


カーテンも閉めずに出かけた部屋の窓から朝日がさす。

腹立たしさと眩しさで目が覚めそうだ。

カーテンを閉め、化粧も落とさず眠りについた。

そんな明日もまた、私はバーへ遊びにいくのだ。

何故って?

理由なんてない。

今はそこが私の全てだから。



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8.指輪の行方

いつものようにバーのカウンタで暇を潰す夜。


横に座っている親友が、不自然なタイミングでネックレスのトップリングを外し指にはめ始めた。

あまりにも不自然だったので、私は言葉を失いその行動をもれなく見ていた。

女が不自然な行動をとる時、必ずと言っていい、誰かに気付いて欲しい時なんだ。

私は彼女の何に対してコメントすればいい・・・。

言葉を出そうと必死で考える。

口だけがぽかんと開いたままパクつかせ、私は馬鹿丸出しだ。


「やっぱり大きいよね」

「指輪?」

「親指にしか入らない」

「貸して、貸して」

「いいよ」

「ほんとだ!私の親指はスポスポだわ」

「全く使えなくてネックレスにするしかなかってんよ」

「男からもらったん?」

「そう」


自慢したかったのか。

なんだ。

私、こういうの鈍いからな。

と言うか、今までこの子とこんな自慢話とかした事あったかな。

ないな。

違う、まだ何かあるぞ。

自慢したところで、私たちには何の快感もない。

秘密主義者ではないが、私たちはとことん男でしか快感を得ない。

女同士で男の話などしたって何もおもしろいことなんてないもの。

女は自慢話をして快楽を求めているなんて、何処で統計とったんだよ!なんて思うほど詰まらないと思う。

男に物もらって、自慢して喜び得るなんて勿体なくねぇか?!

男の前で喜び絶頂に達した方がどれだけ気持ちがいいか。


彼女を見るとやはりまだ指輪を手の上で転がし、はぁっとため息をついている。

言えよ、言っちゃいなよ。

気分が悪い。

回りくどすぎる。

こうなるとこちらとしても、誰が聞いてやるものかと意固地になるものだ。

あぁ、首筋が痒い。


「これ、やっぱり返そうかな~」

親友が口を開きだした。

何を企んでる?

「何で?」

「うん、別に欲しいわけじゃなかったし、使えないしさ。でもグッチだしね」

「グッチ・・・」

「うん、グッチ」

「グッチやからって事?」

「ま、そんなところじゃない?!何の思い入れもないし」

「ふ~ん」

何が言いたいんだ?

やはり自慢にしか聞こえない。

ま、この子が自慢で喜ぶようになったっていうのなら、付き合ってやるけれども・・・。

慣れてない自慢話はネチっこくて嫌だ。

こう、もっと笑っちゃうくらいドカンと自慢してくれよ。


「それ、使ってんの?」

男友達が厨房から出てきて、親友にそう言った。

「うん、ありがとね~。何か大きいからネックレスにした」

段々、話が読めてきた。

こいつ、何企んでんだ?

「それ、あんたがあげたん?」

「あぁ・・・」

「ちょっと待って、それこの前私が頂戴って言って断ったよね?」

「いや、無理やりとられてん」

「無理やりって、取り返そうと思ったらできるでしょ?」

「何度も言うたよ」

「思い入れあるって言うたよね?それほどのもんやったん?」

「いや、返して欲しいよ」

そう渋々言った後、男友達は仕方なしにといったような顔で親友にこう言った。

「それ、俺気に入ってるし返して~な」

「嫌や、これはもう私のもの~」

「ほらな!」

何が、ほらな!なんだか・・・。

返してもらう気更々なしですか。

それとも親友が超ワガママ娘だとでも思ってるのか。

どっちにしたって、もういい。

いい加減な男。


「返してあげれば」

「向こうも諦めてるみたいやしいいんじゃない」

「お互いそれでいいなら別にいいんやけどね」

「せのりだって、貰おうとしてたんやん」

「思い入れあるものまでとりあげられへんけどね」

「それをくれたんかー。何か重いな」

「そう思うなら返せば」

「でも、グッチやで」

「そ・・・」

「ヤキモチ妬いてる?」

「はぁ?」

「いや、何も言うてないよ」


そうか。

そういうことね。

これは彼女にとっての最高の快楽なのだろう。

私、あなたの事なら全てお見通しよ的な快楽。

きっと、親友は私が男友達に好意を寄せていた時に何らかの形で気付き吐かせようとしている。

だが、それももう過去。

何を最終的に企んでいるのかしらないけど、的がずれすぎて嫌悪感さえ感じる。

解かる。

私もそうだもの。

親友の密かな思いに気付き、それを当てて「実は」と言ってもらえる時こそ女同士の快楽を得る。

最高に気持ちがいい。

だけど、それはもう与えてやれないわ。

だって、私はもう男友達を好きではない。

それに、今日の一件でまた嫌いと言う意識が増えた。


適当な言葉を吐く奴は嫌い。

それが人の心を動かすと判っていて使うような奴はもっと嫌いだ。

指輪がただ気に入ってるだけなら、それだけでも十分じゃないか。

なのに何が「思い入れ」だ。

こんな奴を好きだと思われている事に対しても腹が立つ。


「とりあえず、大切にしたほうがいいんじゃない」


そう彼女に一言言ってこの話は終わった。

彼女もそっと首に付け直し、満足といった顔を振りまいていた。

そして、こちらをじっと見つめている。

視線をギラギラと感じる。

面倒くさいが彼女を見てやると、心の声が聞こえてきそうな程悪魔のような笑みを浮かべていた。


まだ、何か仕掛けてくるつもりらしい。

多分、私が吐くまで続けられるのだろう。

男を好きになって、これだけ後悔したのは始めてだ。

1度でも好きかもなんて思わなければよかった。


なんだか、バーテンダーの彼を好きでいることも申し訳ない気分にさせられる。




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Forget me not(TB)

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第26回 花に想いを託して


このお題を見て、ふと頭に浮かんだのは尾崎豊の「FORGET-ME-NOT」だった。

Forget me notの和名はわすれな草。

とても小さな青い花。

花言葉や由来を知って、この曲の意味深さを知った。


色んなお話や曲に、わすれな草は花言葉の意味と共によく使われる。

「忘れないで」「真実の愛」この言葉達をわすれな草に替えて届けられる。


花言葉の由来にもあるように、この花の存在感はすごい。

とてもとても小さい花なのに、人の目を引き付ける。

二人の愛が先なのかこの花の魅力が先なのか、私は問いかけを続ける。

「忘れないで」そう叫んだのは、青年?わすれな草?

この花の叫びがなければ、きっとこんな小さな花、青年の目には映らなかったもの。


私は、わすれな草が何処かの誰かの家の庭に植えられてるのにふと気付くといつも思う。

誰に、思い出してもらいたいんだろう・・・って。


私自身にこの花に思い出はない。

忘れゆく人もいない。

だけど、そっと心にこの花を咲かせようかなって思う。

そして、彼がわすれな草に気付いてくれた時、何も言わず届けたいなって思う。

私が育てたこの花を受け取ってほしい。

そして、一緒にわすれな草を育ててゆきたい。

そう思う。




アーティスト: 尾崎豊, 西本明
タイトル: FORGET-ME-NOT/OH MY LITTLE GIRL

7.彼と成り行き夜間ドライブ

相変わらずバーに通い、閉店まで居付き、親友共々男友達の車で送ってもらうという毎日が続いている。

相変わらずとは言っても、気まずさや嫉妬、まだ知らぬ思いに企み、複雑に絡み合う私たちの感情は、毎日が非常だった。


今日の私はよくしゃべる。

烏龍茶は時にブランデーの効果を呼び覚ます。

人に絡むという行為は何故にこんなに自分から逃避できるんだろう。

何か楽しいような気分になる。

全然楽しくなんかないのだけれど。


「そろそろ終わるから、もうちょっと待っててな」

いつものように男友達が言う。

正直ほっとした。

私は何でここに居るんだろう。

そうそう、私みたいなのをこんな風に言うよな。

自分の居場所探しとかなんとか。

私がここを選んだわけじゃない、此処が私を受け入れてくれるから・・・。

やめよう。

こうして明るく振舞っていれば、きっと何でもうまくいく。

今までずっとこうやって過ごしてきたんだ。

自分に都合の悪い事は笑って洗い流す。

綺麗にならなくったって、誰も気付かない。

私だけがその汚れに気付いてるけど、目をつむっちゃえば見えない。

好きとか嫌いとか、もうどうでもいいじゃん。


この日は店長が休みで、皆で戸締りをして店を出た。

私と親友と男友達、そしてバーテンダーの彼と。

男友達の車まで徒歩1分。

少し遠くに見える駐車場に黒いボディーが少し光っていた。

肩を並べて車に向かう親友と男友達。

そんな背中を見ていたら、何故か足が止まったんだ。

店の前に車を止めていたバーテンダーの彼。

エンジン音が私の体を絡めるように鳴り響いた。

二つの黒い影、エンジン音、ねぇ・・・好きになってもいいですか?


1歩、2歩、3歩。

バーテンダーの車の前で精一杯の笑顔をつくって見せた。

「え!?乗るの?送ってけって?!」

その問いにこくっと頷いた。

「友達に言うた?」

首を横に振る。

多分、あたし少し泣きそうだ。

ばれませんように。

「あの二人、心配そうにこっち見てるで」

駐車場に辿りついたと思われる二つの影の方を目をこらして見てみた。

何か言ってる。

声が小さくてよく聞こえない。

見た感じ、ちょっと焦っているような慌てているような状況が飲み込めないといった感じだ。

乗るの?どこ行くの?その様なことをいってるみたいだ。

何だかおかしくなってきた。

バーテンダーの彼を見たら、クスクス笑ってる。

「乗れよ!」

「うん」


私の家も知らないのに、彼は車を走らせる。

何処に向かってるんだろう。

さっきまで必死に自分から逃避していたのに、本当に逃げてるみたいだ。

気持ちがいい。

ワクワクする。

このまま・・・このまま何処かへ連れてって・・・。


どんどん進んでいく車。

真夜中の道路に車はなく、あっという間に3つも市を超えた。

「俺ら、何処向かってんの?」

「さぁ、ハンドル握ってんのあなただよ」

「ホンマによかったん?黙ってこんなこと」

「子供じゃないんやから!」

「反抗期?」

「ムッ」

「お前さ、辛くないの?」

「なんで、こんなに笑ってるのに?」

「目は・・・笑ってないよな・・・」

「・・・・・」

「お前って、悲しい目してるよな」

「・・・・・」

「いつからそんな目するようになったか知らんけど、泣きたい時泣けよ」

「・・・・・」

「俺と同じ匂いするねんな。人、視てるやろ、その目で。色んなもん視えるよな。見るだけじゃ見えないもん視てるやろ。人、信用できひんか?もっと話した方がいい。俺じゃなくてもいい。もっと素直になれ」

「・・・・・楽しいよ。・・・・・何、話して欲しい。何でも話せるよ」

「俺が選ぶ事じゃないやろ」

「楽しい話でいい?今、本当に楽しいからさ~」

「・・・・・そっか」

彼が黙ってしまったから、私も黙って視線を窓の外に向けた。

流れる景色と共に涙もながれそうだった。

私の目が、悲しい?!


やっぱり彼は私と同じ傷を持ってる。

悲しい目をする人間には、閉ざしてしまった人の心が見える。

私は彼のそんな目に惹かれた。

彼は私の目をどう思うのだろう。

少し怒ったような口調。

嫌われたのかな・・・。


「俺さ、お前と同じだよ」

彼が自分の傷を語りだした。

「う~ん、何て言えばいいのか解からんけどさ、俺には話せよ、な」

「うん」

「俺、お前見てると守りたくなるねん」

「え?」

「守ってやらななって、思う」

「何の使命感!?」

「はは、そんなんじゃないけど、そう思う」

「変なの」

「そろそろ、送ってくよ」

「うん」

「あいつら、そう言えばすごい焦っとったよな」

「うん、あはは」

「めっちゃ心配してたっぽいし、お前の家の前におるかもよ」

「まさか!」

車を近くの駐車場でUターンさせて、また3つの市を越え私の家へ向かった。

私の家の前に黒い見慣れた車が1台。

そっと、その車の後ろにつけて停車した。

「まさかとは思ったけど、あいつらお前待ってるで」

「うん」

「えぇんか?」

「向こうに乗らなきゃいけない義務はないでしょ」

「そうやけど・・・」

「私は、こっちに乗りたかったんやもん」

そこに彼の携帯へ電話が入る。

男友達からだった。

彼の受け答えが妙に焦っててちょっとおもしろかった。

「違うって!」

「何もしてへんよ!」

「いや、ドライブしてただけやし!」

段々、腹立ってきた。

向こうが何を言っているのかよく判る。

要はこういうことでしょ。

店で会ったバーテンダーと客が、仕事終わりにラブホで1発おつかれさまってことでしょ。

何疑ってんだか!

どれだけ私を軽い女だと思ってるんだ。

それに・・・彼はそんなことしないよ・・・。

自分の事もそうだし、好きになった相手まで否定されるなんて、こんな屈辱ある?!

しかも、そう仮定して人の家で待ち伏せって、悪趣味。

「おい、お前も何とか言ってくれよ」

「嫌!」

「何!怒ってんの?え?!」

何とか話はついたようで、電話を切った後男友達の車は走り去っていった。

彼は休むことなく私をなだめる。

「そやな、お前は軽い女じゃないよ」

そう言いながら、ポンポンと軽く頭をなでるように、子供をあやすようにたたく彼。


今にも胸に飛び込みそうだった。

心が磁石になったみたいに、彼に引きつけられるのが判った。

今にもくっついてしまいそうで、ぐっと耐えた。


ねぇ、今私、笑ってないね。

気付いてるでしょ・・・。

目と同じ顔してる。

心が外に出てきちゃったよ。

もう、剥きだしの心に触れないでね。

今日の事は忘れてほしい。

きっと、明日にはいつもと同じ私がいるから。

あなたの目は良すぎる。

何処まで私の心を視てるんだろう。

好きってきもちだけは、ずっとずっと奥にしまおう。

素直じゃない私でも、守ってくれますか?


私は、あなたに心許しすぎて、あなたの心を視る事ができなくなってしまった。

彼は一体今、何を考えているんだろう。




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